【相続時精算課税制度】デメリット・手続き・暦年贈与との違いをわかりやすく解説

財産を相続よりも前に譲りわたす「生前贈与」。最大のメリットは、子どもや孫たちに感謝され、喜ぶ顔が見られることでしょう。多くの資産を所有する親世代に対して、子ども世代は、資金繰りに余裕がないことも多いもの。贈与なら、タイミングを選べない相続とは異なり、子どもが必要な時に、本当に役に立つ援助ができます。

そして、生前贈与のもう1つのメリットは、相続税対策ができるということです。贈与には毎年110万円までが非課税になる「暦年贈与」(いわゆる一般的な贈与)と、2500万円まで非課税の「相続時精算課税制度」を利用した贈与の2つがあります。 両者を活用すれば、苦労して守り蓄えてきた財産を軽い税負担で子どもに移転できます。

今回は、相続時精算課税制度について、基礎的な内容からデメリットや手続き、そして、お得な贈与にするためのコツまでをわかりやすくご説明します。制度を利用すべきかお悩みの方は「我が家は相続時精算課税制度を使うべき?一目でわかるフローチャート」でチェックしてみましょう。

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相続時精算課税制度とは?

合計2500万円までなら何回に分けても非課税で贈与できる

相続時精算課税制度の仕組み

 

相続時精算課税制度では、2500万円までのあらゆる財産について、贈与税を払うことなく何度でも子や孫に贈与できます。
贈与した金額が2500万円を超えた部分については、一律で20%の贈与税がかかります。

「相続時」には前払いした贈与税と、支払うべき相続税とを「精算」できる

相続時精算課税制度で贈与された財産は、相続が発生した時には相続財産に足し戻されます。つまり、相続で受け継いだものとして相続税の課税対象になるのです。

  • 相続税がかからない場合
    相続の時に追加で支払う税金はありません。
    贈与税を納めていた場合は全額還付が受けられます。
  • 相続税がかかる場合
    相続税から、すでに納めた贈与税を差し引いた額を納税します。
    贈与の時点で支払った贈与税が、相続税の一部にあてられる形となり、二重課税にはならず、贈与税と相続税が「精算」されるのです。

相続時精算課税制度によって相続財産そのものは減らせません。いわば、「相続税の前払い」をすることで「相続財産の前借り」をしている状態です。

相続時精算課税制度の仕組み

相続時精算課税制度を利用するための条件

贈与する人・される人の条件は以下の通りです。
贈与する人:満60歳以上の父母または祖父母
贈与される人:満20歳以上の子どもまたは孫(養子縁組の親子も可)

※年齢は、贈与を行う年の1月1日時点のものです。

なお、相続時精算課税制度を利用するか、暦年贈与にするかは、贈与を受ける人が選びます。また、贈与する人が違えば、暦年贈与との併用もできるので、以下のような使い方も可能です。

  • 同じ子どもが、父からの贈与では相続時精算課税制度、母からは暦年贈与を選択
  • 両親からの贈与で相続時精算課税制度を選択(非課税枠は合計5000万円)
  • 同じ父親から長男には相続時精算課税制度で贈与し、次男は暦年贈与

相続時精算課税制度のメリット3つ

相続時精算課税制度のメリット3つ

その1:多額の財産を贈与税なしで一気に動かせる

相続時精算課税制度では、2500万円という大きな非課税枠が利用できるので、高額な財産の贈与に適しています。「新しく会社を始めたい」「住宅を購入する」など、まとまった資金が必要になった際には大変便利です。特に、住宅購入の場合には、最大で3000万円(※2019年11月現在)までが非課税で贈与できる、住宅取得等資金の贈与の特例も併用でき、非課税枠はさらに大きくなります。

大型贈与なら、相続税がかからない人はもちろん、相続税がかかる人にもメリットがあります。なぜならば、贈与された財産を最終的には相続税のみの負担で受け継げて、相続税よりも税率が重い贈与税を支払わずに済むからです。これについては、「相続税がかかる人も、大型贈与を行うなら相続時精算課税制度の利用を」で具体例とともにご説明します。

その2:贈与する財産によっては、将来支払う相続税を減らせる

相続時精算課税制度で生前に贈与した財産は、相続時には相続財産として計算されるため、相続財産そのものを減らす効果はありません。しかし、贈与する財産の種類によっては相続税を大きく減らせます。詳しくは、後ほど「相続時精算課税制度で相続税を減らすには、贈与する財産の選び方がポイント!」でご紹介します。

その3:思い通りに遺産を分割できる

相続時精算課税制度を利用すれば、遺言のように、自分の意思を遺産分割に反映できます。例えば、家業を子どもたちのうちの1人だけに継がせたい場合、相続時精算課税制度を利用して後継者に事業用の不動産を贈与する方法があります。相続時に後継者を巡るトラブルを予防できるうえ、受け継いだ子どもは高額な贈与税を負担する必要がありません。

暦年贈与を受けられないのは本当?相続時精算課税制度のデメリット3つ

その1:相続時精算課税制度を選択したら、同じ人からは暦年贈与をうけられない

一度、相続時精算課税制度を選択すると、その後、その人からの贈与は全て相続時精算課税で行われたものになり、暦年贈与はできません。
暦年贈与は長期にわたって行えば、相続財産そのものを確実に減らせる方法なので、有効な相続税対策になります。相続までまだ何十年もありそうなら、まずは暦年贈与での贈与を続け、一定の年齢を過ぎ、先の心配が出てきたら相続時課税清算制度を利用する、などの方法が良いかもしれません。

その2:小規模宅地等の特例と併用できない

相続時精算課税制度で贈与を受けた土地には、相続税評価額を最大で80%も減額できて相続税を大きく減らせる「小規模宅地等の特例」が使えません。この特例が適用できる宅地があれば、相続時精算課税で贈与することは避けた方が良いでしょう。

その3:暦年贈与とは違う!相続時精算課税制度の利用を開始したら、以降の贈与はすべて申告手続きが必要

相続時精算課税制度では、相続が発生するまで贈与された金額を合計していきます。そのため、制度の利用を開始したら、以降、その人からの贈与はたとえ少額であろうともすべて贈与税の申告をする必要があります。贈与の合計が結果的に2500万円以内に収まるにしても、申告していなければ、制度の適用が受けられなかったり、余分な税金が発生したりするかもしれません。

暦年贈与では、非課税枠の110万円以内であれば贈与税の申告不要なので、この点を混同しないようにしましょう。

相続時精算課税制度で相続税を減らすには、贈与する財産の選び方がポイント!

相続時精算課税制度で相続税を減らすには、贈与する財産の選び方がポイント!

相続時精算課税制度では、相続財産そのものは減らせませんが、贈与する財産によっては、間接的に相続税を減らせます。

将来値上がりしそうな財産を見極めて贈与しよう

相続時精算課税制度によって贈与された財産は、相続税の評価額を算出する際、贈与された時点の価格で計算されます。
つまり、不動産や株式のように評価額がその都度変動するものを贈与して、相続時に大幅に値上がりしていたとしても、贈与時の安い評価額のままで相続税が計算できるのです。逆に、値下がりするものを贈与してしまったら、必要以上の相続税を支払う可能性もあることを知っておきましょう。

着実に収益をもたらす財産は早めに子どもに移転しよう

賃貸物件のように着実に収益を産む資産を子どもに贈与すれば、親の財産が増えるのを防げるので、相続税対策になります。

不動産であれば土地・建物を合わせて数千万円の価格になることも少なくないため、暦年贈与では高額な贈与税がかかる場合も多いでしょう。2500万円の非課税枠がある相続時精算課税制度だからこそ、不動産のような大型贈与が可能になります。

例えば、年間500万円の利益が出る賃貸アパートを持っている親の場合、10年間で相続財産が5000万円も増加してしまいます。このアパートを子どもに贈与すれば、土地・建物の贈与についての贈与税・相続税を支払うだけで、そこから発生する5000万円については、非課税で子どもに渡せることになります。

計算例あり!相続税がかかる人も、大型贈与を行うなら相続時精算課税制度が節税になる

相続税のかかる人にとって相続時精算課税制度は「意味のないもの」?

相続税がかかりそうな人からは「相続時精算課税制度は使うメリットがない」という声も聞かれます。これは、2500万円以下の贈与であっても、相続時には相続税を支払うことになるうえ、暦年贈与で相続財産を直接減らすという相続税対策もできなくなるからだと思われます。

しかし、相続税がかかる人でも、大型贈与を行う時には相続時精算課税制度を利用した方が結果的に支払う税金が安くなる可能性があります。

相続時精算課税制度なら、相続税の税率で贈与ができる

暦年贈与の贈与税は、相続税よりも税率が高く設定されています。そのため、多額の財産を一度に贈与する場合には、相続税の税率で贈与ができる相続時精算課税制度を利用すると税金を安くおさえられます。このような時は、相続税がかかる人でも、相続時精算課税制度の利用を検討した方が良いでしょう。
では具体的に、相続税のかかる人が、非課税枠の2500万円を超えて贈与を行うケースを見てみましょう。

大型贈与の計算例:相続時精算課税制度でトータルの税金が1/2以下に節税できた

大型贈与のケーススタディ:相続時精算課税制度でトータルの税金が1/2以下に

【例】7700万円の資産を持つAさん、唯一の相続人は息子のBさんです。Aさんは、会社を立ち上げたばかりで資金繰りに苦労しているBさんを援助するため、3700万円を一括で贈与しました。Aさんは不幸にもその数ヶ月後に交通事故で亡くなり、Bさんは残りの資産4000万円を相続によって取得しました。

このケースについて、「3700万円の贈与を相続時精算課税制度で行う場合」「暦年贈与で行う場合」それぞれでBさんが支払うべきトータルの税額にはどの程度の差があるのでしょうか。
(相続税の詳しい計算方法には「相続税、我が家は支払い対象?」もご参照ください。)

(1)相続時精算課税制度を利用する場合

相続時精算課税制度を利用する場合

したがって、贈与時にBさんは贈与税240万円を支払います。では次に、相続時にかかる税金を見てみます。

相続時精算課税制度を利用する場合

以上のように、相続税額は620万円となりました。

すでに納めた贈与税は相続税から引けるので、
620万円 – 240万円 = 380万円 となり、相続時にBさんが支払うべき相続税の額は380万円です。

 

(2)同じ金額を暦年贈与で贈与し、残りの財産を相続で取得した場合
※贈与税の税率は、親子間の贈与のため「特例税率」で計算しています。

同じ金額を暦年贈与で贈与し、残りの財産を相続で取得した場合

このように、Bさんは贈与時点で1380万円という多額の贈与税を支払うことになります。では、相続時にはどうでしょうか。

同じ金額を暦年贈与で贈与し、残りの財産を相続で取得した場合

したがって、Bさんは相続時には、さらに40万円を支払います。

(1)と(2)を比較してみてわかるように、暦年贈与を選択した場合、Bさんは贈与税と相続税を合わせて1420万と、相続時精算課税制度を利用する場合の倍以上の税金を払うことになるのです。

同じ金額を暦年贈与で贈与し、残りの財産を相続で取得した場合

相続税の支払いが予想される場合は、納税資金の確保もお忘れなく

相続税のかかる人が相続時精算課税制度を利用した場合、たとえ2500万円以内の贈与であったとしても、のちに相続税を支払う必要があります。贈与から相続までに長い時間が経過している場合や、現金以外の資産を譲り受けた場合などは、将来の納税資金を確保することにも注意しましょう。

相続時精算課税制度を使うべきかわかりやすく整理しました!オリジナルフローチャート

相続時精算課税制度と暦年贈与、どちらが適しているかは各家庭の状況によって異なります。Yes/No形式で答えれば自分にぴったりの贈与のタイプがわかるフローチャートをご用意しました。

我が家は相続時精算課税制度を使うべき?一目でわかるフローチャート

Aタイプ:相続税を払う前提で相続時精算課税制度の利用を視野に入れましょう

のちに相続税がかかる覚悟は必要ですが、相続時精算課税制度の利用を検討する価値があります。一度に贈与する額が多いほど、暦年贈与よりも安い税金で資金を渡せる可能性が高まります。ただし、相続時精算課税制度で贈与を行ったお子さんに対しては、今後、暦年贈与で財産を移転することができませんので、慎重な判断をおすすめします。
また、住宅購入資金や教育資金の贈与なら、期間限定の特例が使用できないか検討しましょう。いずれも相続時精算課税制度と併用可能です。

関連記事:【2019年最新版】相続税対策に1500万円まで非課税の教育資金贈与とは
住宅取得資金の贈与を受けた場合の非課税(国税庁ホームページ)

Bタイプ:相続時精算課税制度を積極的に活用し、お子さんの必要なタイミングで贈与してあげましょう

相続税がかかりそうにないご家庭なら、相続時精算課税制度はぜひ積極的に使っていきたいものです。たとえ2500万円以上の贈与を行い贈与税を納めたとしても、相続時には全額戻ってきます。

Cタイプ:相続時精算課税制度を利用した相続税対策を検討しましょう

「値上がりしそうなもの」「安定して収益を産む資産」の贈与は、将来の相続財産を大きく減らせる可能性がありますので、これらを所持しているなら、相続時精算課税制度を利用した贈与を検討すべきです。
ただし、同じ子どもには今後、暦年贈与はできなくなります。暦年贈与を続けた場合と、相続時精算課税制度で大型資産を贈与した場合でそれぞれの税額を見積もってから、どちらを選ぶか決定しましょう。

Dタイプ:まずは暦年贈与から始めましょう

今のところ、相続時精算課税制度を積極的に利用すべき理由は見当たらないようです。お子さんやお孫さんへの贈与は、暦年贈与で行うとよいでしょう。暦年贈与でも、複数人に対して長期に渡って行えば、相続財産をかなり減らせます。

相続時精算課税制度を利用するための手続きは?

相続時精算課税制度を利用するためには、最初の贈与を受けた時と、以降、新たに贈与を受ける時ごとに、贈与を受けた人が税務署で贈与税の申告手続きをする必要があります。

申告手続きは、贈与税の申告書の提出期間(その翌年の2月1日から3月15日)に行うことになっており、これを怠ると、非課税の手続きが受けられません。特に、相続時精算課税制度を適用する最初の年に申告しなかった場合は、そもそも制度を選択したと認められず暦年贈与とされてしまいます。一度に多額の贈与を行なう場合は、税負担が非常に重くなってしまうので注意しましょう。

最初の贈与を受けたときの手続き

以下の5つの書類を提出します。

(1)贈与税の申告書
いつ、誰から、どんな種類の財産を、いくらもらったか、を記載します。

(2)相続時精算課税選択届出書
今回贈与してくれる人からもらう財産については、今後もすべて相続時精算課税制度を適応すると宣言する書類です。相続時精算課税制度を一度選択した後は、暦年贈与に戻れないため、確認を取るための意味合いがあります。

(3)贈与を受ける人の戸籍謄本または抄本などで、名前、生年月日、贈与者の子や孫であることを証明できるもの

(4)贈与を受ける人の戸籍の附表の写しなど、20歳以降の住所または居住を証明する書類

(5)贈与する人の住民票の写しなどで、贈与者の名前、生年月日、60歳以降の住所または居住を証明する書類

翌年以降、贈与を受けた時の手続き

贈与税の申告書を提出する必要があります。注意しなければならないのは、相続時精算課税選択届出書を提出した後は、少額の贈与であってもすべて申告手続きが必要だということです。

期限内に提出しない場合は、2,500万円未満の贈与であっても、制度の適用を受けられません。贈与された額に対して20%の贈与税が課税され、さらに、無申告加算税や延滞税が発生する可能性もあるので、ぜひとも避けなければなりません。

特に、本人に「贈与」の認識がなくとも「贈与」に認定される取引には十分注意しましょう。

相続時精算課税選択届出書は国税庁のこちらのページから、贈与税申告書(第1表・第2表)はこちらのページからダウンロードできます。

贈与はまずあなたの意思を明確にするところから

相続税対策になるとはいえ、したくもない贈与を無理にする必要はありません。「困っている息子を助けてやりたい」「いつも何かと気にかけてくれる次男夫婦に感謝の気持ちを表したい」などの思いを持った時にこそ、贈与を検討すべきなのです。

贈与によって親は相続税対策ができ、子どもは親に感謝しながら譲り受けた財産で豊かな生活を送れるというのが、贈与の理想形ではないでしょうか。親子がお互いに感謝しあう贈与にできるよう、正しい知識を深めましょう。

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