【相続時精算課税】事例から学ぶ贈与テクニック!相続税がかかる人こそ実践を

相続時精算課税制度を利用して行った贈与は、最終的に相続財産に足し戻されるので、相続税対策にならないのでは、と考える人が多いようです。実際には、贈与する財産の種類によっては効果的に節税できるので、相続税がかかる人にとっても、相続時精算課税制度は有効な選択肢の1つです。

そこで今回は、相続時精算課税制度で相続税を減らせる理由と、制度を活用して財産移転を成功させた事例についてご紹介します。なお、相続時精算課税制度についての基礎的な内容は以下の記事で詳しく解説しています。(関連記事:【相続時精算課税制度】お得で喜ばれる贈与を

【相続時精算課税】事例から学ぶ贈与テクニック!相続税がかかる人こそ実践を

相続時精算課税制度で相続税を減らせる理由

直接的には相続財産を減らせない相続時精算課税制度で、なぜ相続税対策ができるのでしょうか。その理由は2つあります。

1.贈与された時点の価格で相続税評価額が計算されるから

不動産や株式のように評価額が変動するものを贈与して、相続時に大幅に値上がりしていたとしても、贈与時の安い評価額のままで相続税が計算できます。したがって、相続で取得する場合よりも相続税評価額が少なくなります。

2. 高額な財産の贈与が行いやすいから

相続税対策として生前贈与を検討しておきたい財産の代表格は、定期的な収益が出る物件と、値上がり確実な土地でしょう。収益物件は保有しているだけで親の相続財産を増やしてしまいますし、土地の評価額が上がれば相続税も高額になります。

これらの財産は一般的に高額であり、贈与すれば最大で55%もの贈与税が発生してしまうため、簡単に贈与できるものではありません。そこで相続時精算課税制度の登場です。贈与税よりも税率が低く控除額も大きい相続税のみの負担で贈与が可能なので、大型贈与が実現できるのです。(関連記事:相続税がかかる人も、大型贈与を行うなら相続時精算課税制度の利用を

【相続時精算課税】事例から学ぶ贈与テクニック!相続税がかかる人こそ実践を

以上2点をまとめると、相続時精算課税制度では「値上がりが予想されるもの」「着実に収入を産むもの」を贈与することが相続時対策の鍵となります。

先行き不透明な現代に置いて、値上がりが期待できる財産を見極めることは簡単ではありません。しかし、「着実に収入を産むもの」としては、毎月賃貸収入のある不動産や、定期的な配当のある金融商品があげられます。これらを踏まえたうえで、次項からはよくあるケースをご紹介します。

事例その1:相続時精算課税制度で賃貸アパートを贈与したケース

【相続時精算課税】事例から学ぶ贈与テクニック!相続税がかかる人こそ実践を

アパートをいくつか所有する鈴木さんは、ある程度の資産があったため「私が死んだら相続税がかかるのでは」という漠然とした不安を抱えていました。

還暦をむかえたことをきっかけに、将来の相続税対策として長男の一郎さんへの生前贈与を決心した鈴木さん。贈与を前提に建て替えたばかりの時価5,000万円の賃貸アパートの評価額がちょうど2,500万円だったので、相続時精算課税制度を利用して、息子の一郎さんに贈与しました。

めでたく贈与税非課税でアパートのオーナーとなった一郎さんは、鈴木さんに大変感謝しました。実は、一郎さんの次女は、姉の通う名門私立小学校に進学が決まったばかり。何かと物入りなこのタイミングで、アパートからの家賃収入が自分のものになるは非常にありがたいことだったのです。

他にも数件のアパートを持つ鈴木さんには、年間で800万円近い不動産所得がありました。そこで、さらなる相続税対策として、鈴木さんは一郎さんの妻と、次男、そして次男の妻に暦年贈与を行うことを決心します。3人への贈与は、鈴木さんが84歳で亡くなるまで毎年続きました。

相続時精算課税制度によってアパートを贈与された一郎さんは、鈴木さんの相続時に、かなりの額の相続税を支払うことも覚悟していました。しかし、いざ相続が始まってみると、相続税の金額は、予想していたよりも大幅に少ないことが判明しました。鈴木さんが長年に渡って行なっていた万全の対策によって、相続財産はかなり縮小されていたのです。一郎さんと次男夫妻は、財産を守り渡してくれた鈴木さんに改めて感謝するのでした。

解説

今回の事例のポイントは、以下の2点です。

(1)着実に収入をもたらす物件を早期に贈与しておくことで、相続財産の増加を防げた

このアパートは評価額2,500万円の土地に建っていました。想定利回りが8%とすると、空室&諸経費を考えても手取りは6%は確保されているはずです。すなわち、年間の手取り金額は5,000万円×6%=300万円となるので、これを毎年、一郎さんに非課税で贈与できることになります。

60歳の地点から考えると、亡くなるまでの24年間でこのアパートから7,200万円もの収入があったことになります。もし贈与していなければ、7,200万円がすべて鈴木さんの相続財産となっていたのです。

(2)相続時精算課税と暦年贈与を併用していた

贈与する相手が異なれば、同じ人物が相続時精算課税制度と暦年贈与の両方を行うことは可能であり、これは相続財産を減らすのには大変有効です。暦年贈与では、非課税枠が110万円と少ないものの、複数年に渡って複数人に贈与すればかなりの額が減らせます。

今回のケースでは、鈴木さんから一郎さんに暦年贈与はできないので、一郎さんの妻と、次男夫婦に対して行なっていました。これだけでも、毎年、110万円 × 3人=330万円の財産が減らせていたことになり、24年間での贈与総額は、7,920万円にものぼります。さきに贈与したアパートと合わせると、鈴木さんは1億5,000万円近い財産を非課税で移転できていたことになるのです。

さらにできたことがあるとすれば、鈴木さんの妻から、一郎さんに対する暦年贈与でしょう。その場合、110万円 × 24年間で、さらに2,640万円もの額を贈与できたと考えられます。また、妻が贈与できるほどの財産を持っていない場合は、夫名義の住宅を「住宅贈与の配偶者控除」を使って妻に住宅を贈与し、それを暦年贈与で少しずつ子どもに移転していくという選択肢もあるでしょう。なお、住宅については、節税効果の高い「小規模宅地等の特例」が適応できることもあるので、贈与にあたっては慎重に検討してください。

事例その2:自社株を相続時精算課税制度で贈与しスムーズな事業継承を成功させたケース

【相続時精算課税】事例から学ぶ贈与テクニック!相続税がかかる人こそ実践を

山田さん(63歳)は、20代で事業を立ち上げて成功させ、1代で財産を築いたという商才の持ち主です。小さいながらも経営の安定した株式会社を家族で切り盛りしてきました。山田さんには2人の息子がおり、2人とも商売の才能はあるものの、長男は優しく気弱、次男は積極的で大胆と、互いに正反対の性格でした。子どもたちにいつかは会社を継いでもらいたいと考えた山田さんは、大学を卒業した2人を社員にして教育することにしました。

やがて70歳を迎えた山田さんは、自分にもいつか訪れる相続のことを真剣に考え始めます。山田さんはこれまで相続税対策として、自社株を暦年贈与によって2人に少しずつ渡し続けており、最終的には、遺言によって残りの株を長男にすべて取得させ、事業は長男に継がせるつもりでした。

しかし、日頃から経営に口を出したがる次男を見ていると、遺言をのこしただけで長男がスムーズに会社を継げるのかには不安が残りました。そこで、山田さんは相続による事業継承ではなく、贈与によって早い段階で会社を長男のものにすることにしたのです。

会社の経営は良好で自社株の評価額は3億円近くにのぼっていたため、このまま贈与すると暦年贈与では、莫大な額の贈与税がかかってしまいます。そこで、山田さんは相続時精算課税制度を使うことを決意します。

3億円の株式を贈与するとその20%、つまり5,500万円の贈与税が課税されると知った長男は、この話を最初は渋りました。しかし、山田さんが、「この5,500万円はあくまでも相続税の前払い。余計な税金を払うわけではない」と説得すると、長男はこれを受け入れることに。納税資金は、山田さんが長男に貸付け、長男は20年に渡って返済することにします。

贈与後の自社株が値上がりするかは事業継承した自分次第、ということもあり、長男はやる気を出して事業に邁進。父親の指導のもと、少しずつリーダーシップを発揮できるようになってきました。それを見ていた次男にも、参謀役として兄のサポートにまわるという自覚が生まれつつあるようです。

長男に事業を継承する道筋が立てられたうえ、相続税対策もできた山田さんは、「私が隠居するにはまだ早いが、これからは徐々に2人に会社を任せていけそうだ」と胸をなでおろしたのでした。

解説

最終的には相続税を支払う相続時精算課税制度は、「相続財産の前借り」ともいえますが、今回のケースではその特徴を最大限に活かして、思い通りに経営権が分与できました。ポイントは以下の2点です。

(1)経営権は父親に残したまま、代表権(大半の株式)だけを長男に移転した

自社株贈与のテクニックとして、評価を下げるために、父親が退職し、会社が父親に退職金を支払うというやり方があります。しかし、今回の山田さんは、株のみを贈与し会社には居残った形です。実は、これは得策でした。なぜならば、この2人の兄弟には、現時点では会社経営の舵取りをできる実力は備わっていないからです。

今回のケースで何よりも大切なことは、兄弟が2人仲良く助け合ってやっていくことでしょう。節税も大切ですが、兄弟の関係に亀裂が入ってしまうと、会社も一家の絆もおしまいです。理想は、兄が弟を盛り立てる一方、兄はそれに感謝しつつ社長として大成していくことでしょう。そのためには、父親の指導のもと、時間をかけて無理なく兄弟が実力をつけていくことが必要不可欠なのです。

なお、相続時精算課税制度では値上がりが期待できる財産を選んで贈与することが大切でした。(参考:相続時精算課税制度で相続税を減らせる理由)自社株を贈与する場合は、新規事業が軌道に乗り成功するのが確実になった時などに贈与すると、贈与後の値上がりが期待できるでしょう。

(2)暦年贈与を十分に行ってから相続時精算課税制度を選択した

山田さんはすでに暦年贈与を10年以上行い、長男に1,000万以上の金額を渡したうえで、相続時精算課税制度で贈与を行いました。相続時精算課税制度には相続財産そのものを減少させる効果はないので、相続までに時間的余裕がありそうなら、暦年贈与を十分に行い、相続財産を減らしてから実行するのがおすすめです。

不動産の贈与はメリットが大きいが、「共有」には十分ご注意を

実践しやすく、確実に多額の財産が移転できるのは、鈴木さんの事例のように、相続時精算課税制度を利用して収益物件を贈与するパターンでしょう。家賃収入部分をそっくりそのまま子どもの財産にできるのです。ただし、この制度を活用して複数の子どもに収益物件をゆずる際には、共有状態におちいるリスクがあることを知っておくべきです。

例えば、ワンルームマンション1棟を所有している親が、相続時精算課税制度を使ってこれを子どもに譲るとします。非課税枠の2,500万円以内の贈与にするため、3部屋ずつを3人の子どもに贈与したら、子どもたちは贈与税の支払いはまぬがれますが、マンションは3人の共有財産になってしまいます。これでは、処分・管理が煩雑になり、のちのトラブルの元になってしまうのです。不動産の共有についてのリスクは以下の記事で詳しく解説しています。(関連記事:身近に潜む不動産の共有問題 あなたは大丈夫?

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