【立ち退き拒否!?】使用貸借トラブル解決法と9事例|弁護士監修

所有している土地や建物などを無償で貸し出すことを「使用貸借」といいます。

現在、所有地や建物を無償で貸している人の中で、「本当はすぐにでも返して欲しい」と思っている方も多いのではないでしょうか?そんな時、やることといえばまず借主さんに交渉することです。しかし、親子や親族などの親しい立場であることが多いために難航するケースも少なくありません。

どうしても解決しない場合、最終的には法的手段へと発展してしまうこともありますが、できればそれを避けたいとお考えではないでしょうか。そのような時、どう解決すべきなのかを事例を交え具体的に解説していきます。

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使用貸借の土地、相続税はどうなる?

使用貸借とは

目次

使用貸借とは?

使用貸借とは、簡単に言えば所有している土地や建物などの不動産を金銭などの対価を貰わず、無償で他の人に貸すことをいいます。例をあげると、親子間での使用貸借です。親の所有している土地(親名義の土地)に、子どもの家を建てるというのが使用貸借として多いケースといえるでしょう。

このように使用貸借はごく親しい親族間で行われやすいものですが、隣人や友人など赤の他人に土地や建物を使用貸借するというケースも珍しくはありません。

使用貸借と賃貸借との違い

使用貸借と賃貸借の違いは土地を貸すことによって、金銭などの対価をもらうか否かの違いです。土地を貸すなら「地代」として、土地と建物を貸すなら「賃料」として金銭の授受を行いますが、無償で貸し出すことを使用貸借、地代や賃料を貰い貸し出すことを賃貸借といいます。つまり、金銭のやりとりの有無が使用貸借と賃貸借を分ける大きな違いとなります。

地代や賃料の代わりに固定資産税を払ってもらっていた場合

「地代や賃料の代わりに固定資産税を支払ってもらっていた」というケースは使用貸借なのでしょうか。それとも賃貸借なのでしょうか。

上記の場合、金銭の支払いはあるものの地代や賃料という約定ではありません。また固定資産税を支払うということは、金銭を受け取ってもそのまま税金の支払いに充てられ、貸主さんに利益が出るわけではありません。そのため、この場合は賃貸借には当たらず、使用貸借であるとされます。つまり、借主さん側の法的効力を高める借地借家法には該当しないということです。

土地の使用貸借に契約書は必要?

土地の使用貸借は、口約束で結ばれることが多いのも特徴のひとつです。

「土地が空いているからここに家を建てればいいよ(親から子または親族へ)」「お宅の空いている土地に車を止めさせてもらっていいですか?(隣人から)」「家庭菜園させてもらってもいいですか?(隣人から)」など、空いている土地を使わせてほしいとお願いされるケースは多く見受けられ、土地の所有者も「どうせ使っていない土地だから」と軽い気持ちで了承してしまうことが多いのです。

しかし、契約書のない口約束による使用貸借では「いつまで貸せばいいのか」という明確な期日を設定していないことがほとんど。つまり、「返してほしい」と言わない限り、ずっと貸したままになってしまうのです。

また、契約書を作成しなければ、貸した土地を借主さんの自由に使われてしまう可能性も捨て切れません。畑用に貸したはずなのに勝手に倉庫を建ててしまわれたり、駐車スペース用に貸した土地に勝手にアスファルトをひかれてしまったり、といった予想外なことに使用されることもあります。

民法第599条において「使用貸借した土地の原状回復義務」が定められていますが、契約書がなければ「本当に使用貸借した土地なのかどうか」でさえもあやふやになってしまう可能性があるのです。つまり、使用貸借した土地であるのかどうかを証明するためにも、契約書の作成は必要といえます。

契約書のない使用貸借はトラブルの元

例えば、使用貸借したそのときには貸主側が利用する予定がなくとも、のちに「貸した土地を売却したい」「事業用として使用したい」「貸宅地として他の人に貸したい」といったことが起こり得るかもしれません。しかし、契約書がなく明確な返還期日を定めていない場合には「そんなこと急に言われても…」と借主側に拒否されることもあります。

ただし、法律的には「当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。(民法第597条)」とありますから、いつでも返還を要求できます。

しかし、土地の上に建物を建ててしまわれたケースや、資材や農機具などの私物が放置されたままになっているケースでは、強制的に立ち退きを敢行することはできないと言えるでしょう。なぜなら、土地は貸主さんの所有物であっても、その上にあるものは借主さんの所有物であり、勝手に撤去すると法的に罰せられる可能性があるからです。

こうならないためにも、「契約満了期日・使用目的・目的外での使用禁止・返還時の原状回復」といった項目内容を盛り込んだ使用貸借契約書を作成することをおすすめします。

使用貸借契約書に印紙は必要?

契約書には印紙が必要と思われている方も多いかもしれませんが、印紙が必要となる契約書は印紙税法で定められた課税文書に該当するケースのみです。

【参考サイト】
国税庁:印紙税・契約書の意義

使用貸借契約書は不課税文書に該当するため、印紙を貼る必要はありません。

契約書のない使用貸借は相続発生時に問題が起こることも

前述したように、口約束で始まった使用貸借は貸主側、または借主側の気が変わった時にトラブルになるケースが多々ありますが、一番大きな問題となるのは土地の相続が発生した時です。

被相続人(使用貸借契約を始めた人)は無償で土地を貸すことを認めていたとしても、土地を相続した人が認めてくれるとは限りません。使用期限や用途などを明確に決めた契約書がない場合、相続人に「立ち退いてください」と言われれば立退くしかないのです。

また、使用貸借で土地を借りていた人(契約者)が亡くなった場合はその契約自体終了となるため、速やかに土地を明け渡さなければなりません。契約者が亡くなった後もその土地を使用したいと思うのであれば、土地の所有者と再度、契約を交わす必要があります。

【参考記事】
使用貸借している土地の相続について

親子間の使用貸借は贈与になる?

土地の使用貸借としてよく行われるのが、親名義の土地なのに子どもが家を建てるといったものです。親子間で使用貸借する場合、贈与になるのでしょうか。

親子間で行われる土地の使用貸借は贈与に当てはまりません。端的にいえば、借地権という「土地を借りるときに発生する権利」を親から譲られたように見えますが、権利金や地代という対価の発生しない使用貸借は借地権のような強い権利を持つものではないので、贈与にはならないのです。

注意したいポイントは、あくまで無償で土地を貸すという点。地代を支払ったり、権利金を支払ったりすれば、「賃貸借」扱いになるので贈与税が課税されてしまいます。

地代の支払いは使用貸借の範囲から外れてしまうのでNGですが、土地の固定資産税を支払うというのは範囲内なので可能です。「タダで貸してもらうのは申し訳ない」ということであれば、土地の固定資産税を地代がわりに支払うことをおすすめします。

【参考サイト】
国税庁:親の土地に子供が家を建てたとき

使用貸借を解消し立ち退きしてもらうには

使用貸借の契約を解消し土地建物から立ち退いてもらうためには、まず借主さんと交渉するところからスタートします。交渉によって解決できればよいのですが、借主さんの中にはすんなり立ち退きに応じてくれない人もいるでしょう。

民法では、使用貸借契約において借主さんの権利は非常に弱くなります。そのため期日の決められていない契約では、貸主さんから立ち退き要請を受けたら、借主さんはその土地建物を速やかに明け渡す義務があると定められています。しかし、今まで便利に使用してきた土地建物を簡単に明渡せないと考える人も少なからずいます。

では、立ち退き交渉が決裂してしまったときにはどうしたらよいのでしょうか。

交渉が難航し話が進まないという場合は、土地建物の明け渡し要請を内容証明郵便で送り、最終的には法的措置を取らざるを得ないといえます。しかし、法的措置となると貸主さんと借主さんの関係は断絶されてしまうことは明らかです。借主さんとの関係悪化を望まない場合は、第三者を立てて再交渉に望むといった方法を試してみるのもひとつの手です。

ニーズ・プラスでは、このような土地建物関係のトラブル現場に数多く立ち会ってきました。このような経験から円満に解決する糸口を見つけ、ご提案できることも多々あると考えます。余計な亀裂を入れず円満解決を望まれる場合は、ぜひ一度ご相談ください。

立ち退き料を払わなければならないケースはあるのか?

無償で土地建物を貸している使用貸借なのだから、立ち退き料はないだろうと考える貸主さんもいるかもしれません。ですが、実は使用貸借でも立ち退き料を求められるケースは存在します。それは、契約期日が終了していない場合、または使用貸借の目的がまだ達成されていない場合です。

法的に争った結果、立ち退き料を支払う必要性があると結論づけられた場合に限りますが、立ち退き料の支払い命令を下される可能性はゼロではないことを頭に入れておきましょう。

使用貸借事例(1)知り合いに30年近く無料で貸していた土地を返してもらおうとしたら「時効が成立している」と言われてしまった

自宅の周囲にいくつかの土地を所有している久子さん。一部は持て余し、空き地となっている状態でした。そんな空き地の1つの隣に、一樹さんが住んでおり、同級生でもある二人は普段から親しく付き合う仲でした。
女性
ある時、久子さんは一樹さんから相談を持ちかけられます。

「うちの横の空き地だが、使う予定がないなら、駐車場にさせてもらえないだろうか。実は、息子夫婦と一緒に暮らすことになったんだ。息子と嫁の車2台を停めるには、ご覧の通り、うちの庭先だけでは足りなくてね。」

人の良い久子さんは「そんなことならどうぞ使ってちょうだい。どうせ余っている土地なのよ。」と快諾。こうして一樹さんの家族は、久子さんの土地を駐車場として無料で使い始めました。

「タダでいいよ」と土地を貸していたら、いつの間にか「借りていたとは思っていなかった」

それから25年が経ち、一樹さんは亡くなりましたが、息子の健一さんは、引き続き久子さんの土地を使用していました。これを快く思っていなかったのが、久子さんの娘の郁子さんです。

貸借

一樹さんの死後、健一さんは、久子さんに断りなく駐車場の一画にプレハブの物置を建てました。さらにその壁に「月極駐車場 空車あり 健一」と標識まで掲げたのです。「うちの土地で勝手なことを」と苦々しく思った郁子さんですが、「母が貸したものだし、母の元気なうちは」と黙認していました。

一樹さんの死から3年後、久子さんも亡くなりました。遺産を相続した郁子さんは土地を返してもらうべく、健一さんとの交渉に出向きました。すると健一さんはこう言い放ったのです。

「借りているなんて聞いていない。親父から相続して、我が家の土地として30年近く自由に使ってきたんだ。借りた土地だとしても時効が成立している。今更返せない。」

土地の使用貸借は久子さんと一樹さんの口約束で始まっており、契約書は見当たりません。郁子さんは土地を返してもらえるのでしょうか?

弁護士の解答:占有意思期間が満たされていないため時効は成立しません

持ち主に「返して」と言われれば、借りている側は応じなければならない、というのが使用貸借の基本的なルールです。したがって、健一さんが主張する「時効」が成立していない限り、郁子さんには土地を返してもらう権利があります。では、時効はどんな時に成立するのでしょうか。

「時効」が成立するための条件とは

ここでいう時効とは、厳密には「取得時効」のことで、「所有の意思をもって他人の物を平穏かつ公然と一定期間占有した場合、その所有権を取得できる(民法162条)」というものです。
所得事項のポイント

つまり、借りている側が「この土地は自分のものだ」と思って10年ないし20年使用すると、使用貸借の土地は借り手のものになる可能性があるのです。逆に言えば、「借りているもの」と思いながら使っていれば、何年経っても取得時効は成立しません。

以上の点をふまえて、健一さんの取得時効が成立するかを確認してみましょう。

「所有の意思」は、外観からわかるかたちで証明しなければならない

まず、「所有の意思」については、「心の中でそう思っていた」というのでは不十分で、そのことを、客観的にわかる形で示す必要があります。これはなかなか難しいので、一般的に、取得時効は成立しづらいと言われています。

今回、健一さんは久子さんの土地に断りなく物置を建て、自分の名前の入った標識まで掲げています。他人の土地だと認識していれば、通常このような行動は取りませんよね。したがって、このことは、健一さんの「所有の意思」を裏付ける証拠の1つになると思います。

所有の意思を持った時点からどのくらいの時間が経過したか

駐車場

次に、健一さんが、所有の意思を持ちながら、駐車場を使用していた期間はどのくらいになるかをみてみます。

健一さんは30年近く駐車場を使用していますが、「駐車場が自分のものだ」と認識したのは、一樹さんが亡くなり遺産を相続した時です。つまり、一樹さんが所有の意思を持ってからはまだ3年しか経っておらず、取得時効は成立しないと考えられます。

今回は、父・一樹さんが土地を使用していた期間を通算することはできない

取得時効を主張する者は、「土地の占有期間を計算する際、自分の前にその土地を占有していた人の期間も合計できる」というルールがあります。この考え方にもとづくと、健一さんは一樹さんの時から通算して30年近く土地を占有していた、と主張できそうですが、実はそうではありません。

なぜならば、健一さんの前に駐車場を使用していた一樹さんは、使用貸借として土地を使っており、所有の意思を持っていたとは言えないからです。つまり、健一さんが土地を自分のものだと思って使用していた期間は、やはり「3年」なのです。

使用貸借では、賃料のやりとりがないので、月日が流れるうちに「貸し借りをしていることすら曖昧になっていた」というリスクがあります。トラブルを避けるためには、使用貸借であることを明記し、貸し出す期限や使用目的について定めた契約書を作成しておくことがとても大切です。

使用貸借事例(2)お隣さんにただで借りていた土地に建てた倉庫、隣人の許可なく売却できる?

定年後、郊外の一軒家を購入し、セカンドライフをスタートさせた佐藤さん。家庭菜園を営んでいましたが、趣味が高じて、畑を何枚か作るようになりました。農作業の規模が大きくなってきたため、佐藤さんは、肥料やコンテナをしまうための倉庫が欲しいと考えます。
農具

佐藤さんの家のすぐ裏には、お隣さんが所有する空き地があり、倉庫を建てるには最適の場所です。聞けば、何年も空き地になっており、当面使う予定はないとのこと。収穫した野菜をおすそ分けするなどしてお隣さんと良好な関係を築いていた佐藤さんは、思い切って「農機具を保管する倉庫を建てたいので、土地を使わせてもらえないでしょうか」と申し出ました。

「佐藤さんが来てくれてうちも何かと助かっているから、構わないよ」と隣人は承諾。佐藤さんは喜んで倉庫を建て、農作業にいっそう精を出していました。

「あの人には売らないでほしい」と言われてしまったらどうすべきか

しかし、10年が経過した頃、ふとしたことから腰を痛めた佐藤さんは、農業をやめざるを得なくなってしまいます。

腰を痛めた

これを機に、農作業に必要な道具はすべて処分することを検討しましたが、倉庫はまだ築年数も浅く、取り壊してしまうのはもったいない話です。倉庫をどうしようか、と思いをめぐらせていたところ、その話を聞きつけた近所の山田さんが「中の農機具ごと、倉庫を買い取りたい」と佐藤さんに持ちかけました。

この話に飛びついた佐藤さんですが、土地を貸してくれていたお隣さんに伝えたところ、「山田さんとはあまり親しくないから、正直なところ、うちの土地に出入りして欲しくない。山田さんには倉庫を売らないでほしい」と言われてしまいました。

隣人の許可がなければ、佐藤さんは倉庫を売却できないのでしょうか?

弁護士の解答:売却できるか、贈与するか、原状回復費用を負担するかは貸主さんの心持ち次第

佐藤さんが倉庫を売却するには、土地の持ち主である隣人の承諾が必要です。

建物を利用するには、土地の持ち主の許可も必要

倉庫を利用する権利は、土地を利用する権利とセットで考える必要があります。佐藤さんの倉庫は、隣人の土地に建っています。そのため、山田さんが佐藤さんの倉庫を購入しても、隣人の許可がなければ、山田さんは倉庫を使用できません。したがって、現実的に考えれば、隣人がノーと言えば倉庫は売れないのです。

なお、「土地の所有者の許可がなければ、その土地の上の建物を売却できない」というのは、使用貸借に限った話ではなく、お金を払って借りている土地(借地)でも同じです。

借地であれば、土地を利用する権利(借地権)を第三者に売却することを地主が拒否したら、借地権を持つ人(借地人)は法的な手段に訴えるという方法もあります。一方、使用貸借の土地ではそれはできません。使用貸借の土地の上の建物は、借地と違い、土地所有者がダメと言ったら売却はまず不可能だと思った方が良いでしょう。

倉庫

使用貸借で借りている土地の上の建物を売却するには、どのような条件なら、土地の所有者が売却を許可してくれるのかを探る必要があります。

例えば、今回の場合「山田さんが嫌」なのではなく、「山田さんにタダで貸すのが嫌」ということであれば、隣人と山田さんとの間で、土地の使用料(地代)を支払う契約を新たに結ぶという方法もあります。山田さんは地代を払うことで、倉庫を使えるようになります。

原状回復費は原則的に、借り手の負担

倉庫を取り壊すのはもったいない、と渋る佐藤さんですが、実は、佐藤さんにはそうする義務があります。

土地を返す際は基本的に、借りたときと同じ状態にする必要があり、これを原状回復といいます。どの程度の原状回復を求めるかは、借り手と貸主の話し合いで決まりますが、原状回復にかかる費用は借りている側が負担します。

現実的な解決策は、倉庫を無料で手放すかわりに、原状回復費用を負担しないこと

隣人が許可しない場合、佐藤さんは倉庫の売却はできませんし、隣人から求められれば、倉庫を取り壊すための費用も支払わなければなりません。

そこで、もっとも現実的な解決策は、隣人に倉庫を贈与する形で、倉庫が建ったまま土地を返すことです。佐藤さんは、隣人のために農機具の処分をする必要はありますが、原状回復費を負担せずに済みます。また、隣人は佐藤さんの倉庫を物置にするなど、自由に使えます。倉庫を使用できることが隣人にとってどれほどのメリットとなるかがポイントですが、交渉してみる余地はあると思います。

使用貸借事例(3)使用貸借のつもりで隣人に貸していた土地、買ってくれる人が現れたのに返してもらえない

東京で働く高木さんは、一人で暮らしていた母が亡くなり、地方にある実家の土地と家を相続しました。都会暮らしを続けるつもりの高木さんは、空き家となった実家を売りに出したいと思いながらも、多忙な日々でつい放置していました。

母の葬儀から2年が経った頃、高木さんの元に、実家の3軒隣に住んでいた大野さんから一本の電話が入ります。

「お家なんだけど、草が伸び放題で、町内会でも問題になっていて。とにかく、一度見に来てもらえない?」

草木が生い茂った建物

久しぶりに実家を訪れた高木さんの目に入ったのは、家の前の、雑草に覆い隠されたかつての駐車場と、ジャングルのようになった庭でした。たった2年でこれほど荒れ果てるとは、と驚く高木さんに、大野さんは言いました。

「こんな状態だと、虫も湧くしお隣さんの迷惑になるのよ。家も、あのままだと防犯上よくないし。月に1回でも帰ってきて、草刈りしてもらえるといいんだけど。」

忙しく働く高木さんには、そのような時間はありません。困り果てる高木さんを見かねた大野さんは声をかけました。

「草刈りと見回り、よかったら、私がやってあげようか。その代わりと言ってはなんだけど、駐車場のところに、うちの車を停めさせてもらえない?」

高木さんにとってはありがたい提案でした。こうして大野さんは、庭と駐車場の定期的な草刈りや、家に変わった様子がないかなどの見回りをするかわりに、駐車場部分を無料で使用することになりました。

お金の受け渡しがなくとも「使用貸借ではなかった」ことになるの?

その状態のまま5年が経過し、ついに、実家の土地を買いたいという人が現れました。喜んだ高木さんは、大野さんに事情を話し、駐車場の部分をできるだけ早く返してほしいと頼みました。すると大野さんは「一方的にそんな薄情なことを言われても困るわ。たしかにお金は払ってないけど、代わりに5年間も草刈りや見回りをしてあげてたじゃないの。」と言うのです。

高木さんは、大野さんから土地を返してもらい、売却できるのでしょうか?

弁護士の解答:賃貸借の駐車場で契約書がない場合、貸主さんの申し入れから1年経てば契約は終了

高木さんは大野さんに返還を求められますが、「すぐに返してもらえるか」は別の問題です。まず、今回の使用貸借はいつになったら終了できるのかを考えてみましょう。

目的を定め、期限を定めなかった場合の使用貸借はいつ終了できる?

期限を定めない使用貸借では「その目的に従った使用および収益をするに足りる期間が経過したか」が契約解除できるかのポイントになります。高木さんは大野さんに、「駐車場として使用すること」という目的を定めて土地を貸し出していました。「5年という期間が、この目的を達成するために十分だったのか」について大野さんに裁判で争われると、高木さんとしては少し厄介です。

また、今回は、これが使用貸借であったのかという点も検討事項の1つです。金銭のやりとりはなかったので、見かけ上は使用貸借の状態ですが、大野さんは土地の使用料の代わりとして、草刈りと見回りを行なっていたと主張しています。もしも大野さんの主張が認められれば、この土地は使用貸借ではない、となってしまうのでしょうか。

対価となる行為には、賃料に相当する金銭的価値があったのか

電卓

使用貸借かどうかを判断するポイントは、大野さんの提供していた行為が、賃料に相当するだけの金銭的評価ができるのか、ということです。

まず、草刈りと見回りを業者に依頼していた場合、どの程度の金額が必要だったか、を算出します。次に、高木さんの駐車場を第三者に貸した場合、どのくらいの賃料を設定できるかを計算します。

両者を比較して、「草刈り・見回り」の金銭的価値と駐車場の想定賃料が等しい、もしくは「草刈り・見回り」の方が高額であれば、この貸し借りは、使用貸借ではなかったとみなされる可能性があります。ただ、賃貸借であれば契約書を作成するのが一般的ですので、口頭での使用貸借が賃貸借と判定されるのは、かなり例外的なことではあります。

賃貸借と判断されるとしたら、例えば、「高木さんが実家近辺に複数の駐車場を所持して大野さん以外にも貸しており、大野さんにそれらの管理業務も委託していた」というような場合でしょう。駐車場の管理業務を業者に依頼しようとすれば、ある程度の費用がかかってきます。一方、高木さんの駐車場の想定賃料は、地方の土地のため、数千円などの低額になることも考えられます。大野さんの行なう作業の内容にもよりますが、賃貸借契約だった、と言われて争われる可能性があるのです。

賃貸借では土地は返還してもらえない?

カレンダー

万が一、「使用貸借ではなかった」となっても、高木さんは土地を返してもらえないわけではありません。賃貸借の駐車場で契約期間の定めがない場合、貸主さんが申し入れてから1年経てば契約は終了します。したがって、1年待てば、高木さんは土地の明け渡しを大野さんに正式に請求できるのです。

トラブルを避けるためにはどうすればよかったのか

使用貸借であることを明言し、返還の時期を定めた契約書を取りかわしておけば、大野さんと高木さんの意見が食い違うことはありませんでした。

また、使用貸借で借り手になんらかの作業を依頼すると、話がややこしくなりがちです。高木さんには、草が生えないよう地面にシートを張っておく、空き家の見回りは専門業者に依頼する、などの選択肢もありました。「タダより高いものはない」と言いますが、善意が仇となることのないよう、使用貸借を始めるときは十分気をつけた方がいいですね。

防草シート

使用貸借事例(4)兄が相続した土地に家を建てた弟 兄の死後、兄嫁に出ていってほしいと言われてた

鈴木雄太さんは35歳で結婚、マイホームを建てる土地を探していました。
すると年の離れた兄が「長男だからすべての土地を相続したけれど、余ってるからタダで使ってくれていいよ。二人きりの兄弟じゃないか」と申し出てくれたのです。
妻の洋子さんも住み慣れた街、夫婦ふたりで兄の土地に家を建てて暮らしはじめ、子どもにも恵まれました。

しかし数年後、雄太さんが交通事故に遭い急死。そのタイミングで土地所有者である雄太さんの兄から「事業拡大のため、事業用地が欲しいので出て行ってくれないか?」と言われてしまいました。

使用貸借とは

若くして夫に先立たれ、幼い子を抱えた洋子さんは途方に暮れました。マイホームの頭金で貯金は使い果たしており、他に行くあてもありません。洋子さんは義兄に頼み込み、なんとかその土地に住み続ける許可を得ました。
家のローンは夫が死亡したことにより保険で賄われ、支払いがなくなったので、なんとか洋子さんの収入だけで暮らす算段がつきました。

兄嫁の土地、弟嫁は出ていかなければならないのでしょうか?

それから8年、雄太さんの兄が亡くなり、洋子さんの住む土地は義兄嫁が相続しました。
すると兄嫁から「我が家も暮らしが楽なわけではないから、土地を明け渡してほしい」と言われてしまいます。

驚いた洋子さんがよくよく話を聞くと、
・雄太さんは生前、「土地代はタダにしてもらっているんだから、固定資産税は払うよ」と兄に言っていたにもかかわらず、実際に支払いがあったことは一度もなかった
・そのことがきっかけで兄弟仲は非常に悪化していた
と、兄嫁が話してくれました。

雄太さんの死後、義兄は一度は土地を取り戻そうとしたものの、若くして未亡人となった洋子さんを不憫に思い、固定資産税の請求もせず、土地の使用を許していました。
しかし、義兄は心の奥底で納得できない気持ちを抱えたまま亡くなったそうです。

洋子さんは詳しい事情を聴き、「出ていけ」と言われても仕方がないことは理解しましたが、生活費を稼ぐだけで精いっぱい、引っ越して家賃がかかるようになったらとても暮らしていけるとは思えず、頭を抱えてしまいました。

弁護士の解答:使用貸借契約続行の交渉が決裂してしまったら、借主さん負担で原状回復した上で明け渡さなければならない

使用貸借は、親しい間柄で行われるからこそ、一度トラブルになると解決が難しいものです。大切な家族と好きでいがみあう人はいません。
親しいからこそ、曖昧にせず、使用貸借を始める時点で契約を交わしましょう。

使用貸借の目的、期間を明確に

契約書は簡単なものでもいいのですが、以下の二つは必ず記載してください。
・どのような使用目的で使用貸借を始めたのか?
・使用貸借の期間はどれくらいか?

使用目的は「住宅用地として」「駐車場として」などと、何をするために使用貸借を行うのかを記します。当初の目的から外れる使われ方をしていたら、契約が解除されます。
使用期間が定まっていない場合も、例えば10年などで一度区切っておくといいですね。事情が変わったら10年経過時点で一度見直すことができるからです。そのまま使用貸借を続けるなら、改めて契約を交わします。

契約を結ぶタイミングは?

契約書を交わす
今回の事例は、兄弟間の使用貸借です。お兄さんも元々は相続で手に入れた土地、弟さんに使わせるのには抵抗はなく、ましてや弟さんが若くして亡くなるとは思ってもみなかったことでしょう。
本来であれば使用貸借開始時に行うべきでしたが、行われていませんでした。となると、洋子さんはご主人が亡くなり、使用の継続の許しを得た時点で、契約を交わしておくべきでした。
洋子さん自身も血のつながりのない義兄からいつまでも使用貸借できると思わず、準備を進めた方がよかったのだろうと思います。

使用貸借は借り手側の権利が非常に弱い

使用貸借は、タダで借りている借り手側の権利は、当然ながらとても弱いものです。貸主さんの考え次第でいつ使用貸借を終了されても、文句は言えない立場だと思っておいた方がいいでしょう。
ずっと使いたいなら、きちんと契約を交わし、書面で残しておくことが大切です。

事例の洋子さんが住み続けたいのなら、適正な「地代を支払う」「これまでの土地の固定資産税を支払う」など誠意を見せ、義姉に根気強く交渉するしか道はありません。

交渉決裂してしまったら

義姉に頼んでも断られてしまったら、義姉の土地上に建つ自宅は、洋子さんが費用を負担し解体、更地にして返却しなければなりません。これを原状回復義務といいます。
土地の原状回復・自身の引っ越し費用など、明け渡すために必要な経費はすべて自己負担。住む場所も失い、更に費用が掛かるとなれば、洋子さんの収入だけでは生活できなくなる可能性があります。そうならないために慎重な交渉が求められるのです。

使用貸借事例(5)叔母にタダで貸した土地と家、従兄弟が使うなら出ていってほしいが、どうしたらいいのか?

結婚を機に家を出た田中由美子さん。嫁ぎ先と実家は飛行機の距離です。
父亡き後、母が実家に一人で暮らしていましたが、癌を患い、闘病していました。
母の妹である叔母が気にかけたびたび訪問してくれて、体が弱り寂しそうな姉の姿に「私が一緒に住もうか」と叔母から、母と由美子さんに提案がありました。
遠方で暮らす由美子さんにとって叔母の申し出はありがたく、叔母・叔母の夫・息子に同居してもらうことにしました。

数年後、母は他界しましたが、「お世話になったし、家を管理する人も必要」と、叔母夫婦には住み続けてもらうことにしました。叔母の息子は就職し、一人暮らしを始めたようでした。
田舎一軒家

叔母の息子夫婦が勝手に引っ越し!関係を解消することはできる?

それから6年、墓参りの際に挨拶する程度であった叔母から急に電話がありました。
「結婚した息子が新居を探している。私たちが引っ越し、息子夫婦をこの家に住まわせてもいいか?」と連絡がありました。
由美子さんは一度は了承したものの、詳しく話を聞くと、3年前にすでに叔母夫婦は引っ越しており、入れ違いで息子夫婦が住んでいたようなのです。
先日、その息子夫婦に子どもが生まれ「リフォームしたいが、さすがに家主の許可がないと」と連絡をしてきたのでした。
使用貸借事例図
「世話になった叔母が住むのなら」と固定資産税だけを受取り、家賃無料で住んでもらっていましたが、ほとんど面識のない息子夫婦を固定資産税だけの負担で住まわせるのは納得できません。
また、リフォームにより実家の姿かたちが変わってしまうのであれば、由美子さんにとっても残しておくメリットがないのです。

事後報告で、自分の家のようにふるまう叔母夫婦にも不信感を抱き、この関係を解消したいと強く思っています。

弁護士の解答:親戚関係の破綻を覚悟の上明け渡し要請を行うか、地代支払いの交渉を行う

お世話になっている親戚に使用貸借したことで起こってしまったトラブル、どのように解決すればいいのでしょうか?

親族といえど使用貸借は避けるべき

親しい間柄で行われることの多い使用貸借ですが、今回のように「面倒をみてもらう」代わりに無料で住まわせるケースでは、「契約書を交わしたい」と貸主さんから言い出しにくいものです。
今回のケースでは、お母様が亡くなった時点で、一度、契約書を交わしておくべきでした。

使用者を叔母と定める契約を結ぶ

相続が発生し、所有者が変わった時が契約書を交わすチャンスでした。その時点で使用者を「叔母」と定め、使用目的についても「叔母夫婦の居住用」と明記しておけば、揉めることはなかったでしょう。
もし知らないうちに叔母の息子が使用していても、この契約書をもって、スムーズに契約の終了ができました。

持ち主の許可なく、勝手にリフォームされたら原状回復を求められる

田中さんが、リフォーム前に気づいたのは幸いでした。一度、改修工事をしてしまうと完全に元通りにすることはできないからです。
勝手にリフォームをされて、持ち主が希望しない設備や間取りに変更されてしまった場合は、原状回復を求められます
しかし、田中さんのように、ご実家がそのままの姿で残っていることに価値を感じている場合、設備を取り払う原状回復をしたとしても、思い出の中のご実家とは似ても似つかない姿になってしまうでしょう。

強制的に出て行かせることもできるが、親戚付き合いはなくなる覚悟を

叔母の息子とは、口約束すらしていない間柄。田中さんは勝手に使われていた状態なので裁判をすれば強制退去に持ち込めるでしょう。
しかし、そこまで強硬な手段を取ってしまうと、今後の親戚付き合いは非常に難しくなります。
お母様の妹さんということであれば、思い出を共有できる大切なご親戚です。田中さんが納得できる条件で、和解の方向にもっていきたいものです。

使用貸借は解消して、売却、もしくは賃料をもらう

住宅地 民家

田中さんに今後使用するつもりがないなら、叔母の息子夫婦に売却、もしくは賃貸することをおすすめします。
他人に売却・賃貸することも考えられますが、リフォームしなければならない状態の家であれば、借り手も買い手もつきにくく、更地にするにも費用がかかります。手元に一番お金が残りそうなのは、叔母の息子夫婦への売却・賃貸です。
取り返したい気持ちもわかりますが、今後の親戚付き合いを考えると、このあたりが落としどころではないでしょうか。

使用貸借事例(6)兄に無料で借りている土地でアパート経営中。立ち退き費用は兄に請求できる?

アパート経営をしていた父が70歳で急逝し、兄弟二人でアパートの土地建物を相続することになりました。アパートは建ててから5年、まだまだきれいで、満室なのに月数件は問い合わせがあるほどです。
兄は忙しく仕事をしており、「とてもアパート経営なんてしている暇はない。アパートはお前にやる」というので、弟の亮介さんが建物を相続、兄は土地を相続しました。

兄から「アパートを取り壊して出て行ってくれ」と言われてしまった

弟の亮介さんは自営業をしながらアパート経営を続け、15年。さすがにアパートも古びてきましたが、大学が近いこともあり、若者の入居希望は絶えずありました。

そんな中、急に兄が「ここを更地にして売りに出すつもりだ。アパートを取り壊して、出て行ってくれ」と言い出しました。
そもそも兄がアパート経営を放り出したから亮介さんが引き継ぐことになったのに、「いまさら言われても」と困惑しています。
更地にするには、入居者の立ち退き料や取り壊しにかなりの費用が掛かるでしょう。

ただ、土地が兄のものであることも確かです。アパートの固定資産税は亮介さんが支払っていたものの、土地使用に対する地代は支払っていません。

このような状況で、亮介さんは兄に土地を返さなければならないのか、また返すとしても兄に立ち退き料や取り壊し費用を請求することはできるのか、途方に暮れています。

弁護士の解答:兄に地代を支払うかアパートを買ってもらう、または土地とアパートを一緒に売却する

「アパート経営はできない」と兄に言われたから、アパート部分を相続した弟の亮介さん。アパートがまだ使えるのに、土地の所有者である兄に「出ていけ」と言われたら、アパートを取り壊し、土地を明け渡さなければならないのでしょうか?
男性二人の背中

そもそも土地と建物の所有者を分けたことが問題

今回のケースでは遺産分割の時点で、土地と建物の所有者を分けたことがそもそも問題でした。トラブルになりやすい「共有」は避けたものの、結果として、双方の自由にならない共有に近い状態になってしまいました。
例えば土地建物は兄の所有、亮介さんはアパート経営の収入を得る、など、相続の時点で話し合っておけば十数年後に揉めることもありませんでした。

使用貸借ではあってもアパート経営という目的は明らか

亮介さんは、兄に地代を払っていないため使用貸借の状態です。とはいえ、すぐに出ていかなければならないか、というとそんなことはありません。

契約書はないものの、亮介さんは相続によりアパートを手に入れています。土地の所有者は兄ですが、亮介さんがその土地上で「アパート経営をする」ということに了承していたはずです。

相続から15年、兄は地代の請求もせずに弟に使わせていたのですから、「アパート経営を目的とした使用貸借である」というのは、双方合意していたとみなされる可能性が高いのです。

兄はこの土地を取り戻せるのか

アパート
兄がこの土地を取り戻せるとしたら、「アパートとして機能しなくなった」時です。入居者もおらず、老朽化が激しい、建て替えか大規模修繕をしないと人が住めないような状況になれば、当初の目的である「アパート経営」ができないとみなされ、兄は土地を取り戻せます。

当初の使用目的から外れなければ、使い続けられる可能性大

しかし、築20年でほぼ満室、一部修繕が必要ですが、まだ使える状態です。返還時期ではないとみなされる可能性が高いでしょう。

和解案を示す

これまで兄の土地を使用していたものの、亮介さんは固定資産税も地代も支払っていませんでした。これについては兄も了承していたので問題はありません。

しかし、兄が土地を明け渡すように言ったのは、「急にお金が必要になり土地を手放すしかない」「退職し手が空いたので、アパート経営をしてみようか」と思っているのかもしれません。ご兄弟でそれぞれの事情をきちんと話し、折り合いをつけることをおすすめします。

兄にアパートを買い取ってもらう

まずは兄に利益率の高いアパートであることを説明します。そのうえで、兄の事情にもよりますが、アパートを兄に買い取ってもらうのもいいでしょう。
亮介さんとしては入居者の多いアパートを手放すのは惜しいと感じるでしょうから、利益率の高いアパートという付加価値を考慮した価格を提示します。

兄に地代を払う、もしくは兄の土地を買い取る

兄に地代を払うといえば、了承されるかもしれません。亮介さんには家賃収入がありますから、周辺相場を調べて土地の賃貸借契約を結びます。

兄の土地、弟の建物を一緒に売り出し、売却した利益を折半する

建物の価値は、通常は完成した瞬間から下がっていきます。そして建物が立っている土地は更地に比べると売買価格は下がります。
しかし、建っている建物に「利益率の高いアパートである」という付加価値があれば、土地とセットで高値で売れる可能性があります。
亮介さんのアパートは常に満室に近く、近くに大学があることから若者の入居希望が絶えません。築20年とはいえ、定期的に手入れをしていたことから、利益率の高い物件として評価されるはずです。

アパート経営が続く前提で、土地建物一緒に売却するのなら、入居者に出て行ってもらう必要もなく、費用は最低限で済ませられます。

兄弟といえど契約書を交わそう

親しい間柄であるからこそ、契約を交わしておくべきです。ご自身の資産はいずれお子さんが相続します。そのときに「親がしたらしい口約束」しか残されていなかったらトラブルになるのは目に見えています。
ご家族のことも考え、相続発生時に手続きを済ませておくことが大切です。

使用貸借事例(7)使用貸借の建物が建っている土地、ローンの担保にできる?

闘病のすえに父親を亡くした本田さんは、父が興した町工場を相続し、30代半ばと若いながらも社長に就任しました。小さくとも父が作った会社、今となっては忘れ形見のようなものです。本田さんは使命感を持って経営に乗り出しました。

あっという間に3年が経ち経営を軌道に乗せた本田さんは、趣味の古着を仕入れてインターネットで売る新たな会社を立ち上げたいと考えるようになります。しかし、本田さんには1点、気がかりなことがありました。それは、新しく借り入れをするために担保にできそうな資産がほとんどないことです。

使用貸借の土地を担保にローンを組みたい!

父から受け継いだ会社の土地・建物はすでに会社の運転資金を借りるための担保になっていますし、自宅の敷地は昨年、新築した時に担保にしてしまいました。所持しているいくつかの土地はアパートを建てており、すでに抵当権がついています。よく調べてみたところ、本田さんがローンの担保にできそうなものは、親戚である伊藤さんが家を建てて暮らしている使用貸借の土地だけだということが判明しました。
使用貸借事例で考え事をする男性

伊藤さんが本田さんの土地に住み始めたのは、15年ほど前の話になります。土地を無料で使わせることを提案したのは、本田さんの父でした。

本田さんの父は、創業のため伊藤さんから大きな支援を受けたとのことで、伊藤さんに非常に恩義を感じていたのです。義理人情に厚い本田さんの父は、伊藤さんから「息子夫婦と二世帯住宅を建てようかと土地を探しているんだけど良い場所がなくて…」と相談を受けた時、「ぜひうちの土地を使ってくれ。あんなにお世話になったんだから、もちろん無料でかまわない」と申し出たのでした。

このような経緯があって使用貸借となった本田さんの土地ですが、本田さんは、この土地を担保にローンを借りられるのでしょうか?

弁護士の解答:使用貸借している土地は担保にできない

金融機関にもよりますが、使用貸借の土地は、一般的に考えてローンの担保にすることは難しいと思います。土地所有者ではない人の建物が建っている土地は、債権を回収しなければならない状態になった時、さまざまなトラブルが考えられるからです。

「人に使わせている土地」は通常、ローンの担保としての価値は乏しい

使用貸借の土地は、流通性が乏しいという意味で、担保としての価値はほとんどないと判断される可能性があります。
使用貸借事例の家

本田さんがこの土地を担保にローンを借りたと仮定しましょう。万が一、ローンを返済できなくなった場合、金融機関はこの土地を競売にかけることになりますが、伊藤さんの家が建っている状態で土地を買いたいという人が現れるかは疑問です。土地を活用するにはまず伊藤さんに立ち退いてもらうことが前提となりますが、それには手間と時間がかかるからです。

使用貸借では借り手側の権利が乏しいため、土地が売られた場合、伊藤さんは原則として土地を明け渡さなければなりません。しかし、伊藤さんがそれにすんなり応じるかは別問題です。また、家の取り壊しには時間がかかりますし、費用を誰が負担するのかという問題も発生します。スムーズに事が運ぶ可能性は低いでしょう。

このような土地が通常の価格で売れるとは考え難いので、ローンの担保としては認められないことがほとんどかと思います。なお、これは使用貸借に限った話ではなく、賃貸借の場合でも同様で、底地はローンの担保として認められづらい傾向があります。

使用貸借の土地をローンの担保にしたいなら、使用貸借を解消するべき

本田さんがどうしてもこの土地を担保にローンを借りたいのなら、伊藤さんには出て行ってもらうしかありません。ですが、今回のケースではそれも難しい可能性があります。

期間を定めていない使用貸借は、「その目的に従った使用および収益をするに足りる期間が経過したか」が契約解除できるかのポイントです。本田さんの父は伊藤さんに、家を建てて住むことを許可したので、これが使用貸借の目的になります。つまり、家が老朽化して住めない状態になっていない限り、伊藤さんはまだ土地を使用する目的を終了しいないことになります。

伊藤さんの家は築15年ですので、十分に住める状態だと考えられます。したがって、借り手の権利が弱い使用貸借とはいえ、本田さんが当然のように立ち退きを迫ることは難しいのです。

人間関係でスタートした使用貸借、終了するときは慎重に

立ち退き費用などを本田さんが負担する代わりに、伊藤さんに土地を明け渡してもらうという交渉の余地はあるかもしれません。ですが、お金をもらったとしても、住み慣れた土地を出て行きたくないと考える人も多いもの。さらに、そのような交渉を行うことで、今後、本田さんと伊藤さんの関係はこじれてしまう可能性もあります。

新しい会社を起こしたいという気持ちもわかりますが、伊藤さんがあってこそ今の会社があるわけですから、本田さんは慎重に判断すべきかと思います。無担保ローンなどもありますので、さまざまな方向から検討すべきでしょう。

今回のように、恩義でスタートした使用貸借は、借り手側が申し出て返ってくるのが理想です。「“返します”と言ってくれるまでは貸しっぱなしでいい」、貸す側は、そのくらいの気持ちでいる必要があります。それが難しそうなら、最初からきっちりと期間を決めておくことをおすすめします。権利関係についてお互いあまり深く考えずにスタートすることも多い使用貸借は、ともすればトラブルにつながりやすいもの。できれば円満な解決を目指したいですね。

使用貸借事例(8)他人である隣人に5年以上タダで貸している土地、今さら契約書は作れるの?

65歳の美奈子さんは広い庭付きの実家を相続しました。家屋が老朽化が目立ったため、一度すべてを更地にして建て替えました。
昔ながらの広い庭は自分で手入れができる程度に縮小し、夫婦が老後を過ごすのにちょうどよい広さの家を建てました。
庭だった部分は更地にして、使う用途がないままにしていましたが、雑草の処理に苦労していました。
そんな時、近所に住む同級生から「使っていないなら、草むしりはするから私に貸してくれない?家庭菜園をやってみたくて」と声をかけられました。

使うあてのない土地ですし、なにより草むしりから解放されたい気持ちが強く、無料で貸すことにしました。
使用貸借事例の自家農園

月日が経過した後でも「使用貸借契約書」は作成できるの?

ところが5年後、美奈子さんの息子が結婚することになりました。すぐにとはいかないものの、いずれは地元に戻ってきたいというのです。

そこで、同級生に貸している土地について、今一度考え始めました。息子夫婦は3年後にはこちらに戻り、マイホームを持つ予定とのこと。
それならば、家庭菜園として貸しているこの土地を息子に譲り、家を建ててほしいと思ったのです。
美奈子さんはさすがに「育ってる作物を抜いて、来月までに出ていってください」などとは言えないので、「3年後に息子が使う予定なので、使ってもらうのはあと2年にしてほしい」と告げました。
ところがそこで借主である同級生から思いもよらぬ言葉を聞くことになります。
「私はここで体が動く限り家庭菜園を続けるつもりだった。私の老後の楽しみを奪うのか。ずっと草むしりをしてやっていたのに」とすごい剣幕でまくしたてられてしまいました。

きちんと契約書を交わしておくべきだったと後悔しても後の祭り。できれば、知人と揉めたことをご近所に知られたくないこともあり、「諦めた方がいいのかも」という考えも頭をよぎります。

弁護士の解答:使用貸借契約書の作成は長年土地を貸した後でも可能

口約束で使っていない土地を貸してしまった美奈子さん。土地を取り戻し、息子の家を建てられるのでしょうか?

口約束で貸した土地、地代も固定資産税ももらっていなくても、出て行ってもらうのは難しいの?

口約束でも契約は成立します。しかし、地代も固定資産税分ももらっていないので、もちろん賃貸借ではなく、使用貸借となります
使用貸借はタダで貸しているので、借り手側の権利は賃貸借に比べて非常に弱いのです。「使用貸借契約の期間」「使用収益の目的」を定めていなかった場合、貸主さんが主張すれば、いつでも契約を解除して、出て行ってもらえます。
無理やり追い出すのはトラブルの元ですが、美奈子さんはあと2年は使ってもいいといっているので、問題はなさそうです。

使用貸借で契約書がないならすぐに作成を

長年貸している土地ですが、契約を結ぶのは今からでも遅くはありません。2年の期間を記した契約書の作成をおすすめします。

「草むしり」の作業を有償とみなすのか

今回の場合、借主はさんは「除草作業という労働を土地使用の対価だ」と主張していますが、賃貸借となってしまう可能性はあるのでしょうか。
「草むしり」という労働の価値が、仮に周辺の地代相場と同等か、超えるほどのモノであった場合は、有償(対価をもらって土地を貸していた)とみなされ、地代の代わりだといえなくもありません。

家庭菜園を維持するための除草は「有償」にあたる労働ではない

このケースでは、土地の借主である同級生が「家庭菜園」をするために美奈子さんが土地を貸しました。

美奈子さんの目的は除草してもらうことではありますが、同級生が家庭菜園をするためには除草が必要です。

そのため、美奈子さんに借りた土地の除草作業は、地代の対価として行われた労働ではなく、自己の家庭菜園を維持管理するために必要な作業とみなされ、賃貸借ではなく、使用貸借であったといえるでしょう。

自分の土地でも勝手に家庭菜園を更地にしてはいけない

借主さんに出て行ってもらいたいとしても、強制的に更地に戻すなど、強硬な手段に出るのは控えなければなりません。いくら自分の土地だといえど、その土地上にある畑や作物、農機具は借主さんのものです。
勝手に撤去したり廃棄したりすれば、器物損壊罪になり得ます。

弁護士に内容証明を送ってもらうのも手

土地を取り戻すために裁判を起こすことになれば、弁護士費用もかかってしまいます。なかなか解決ができなければ数十万円以上の金額になることもあるのです。
この土地にそれを大きく上回る価値があるのであれば、検討の余地もありますが、今回の場合は弁護士費用の方が上回ってしまうかもしれません。

とはいえ、本当は裁判を起こす気がなくても、弁護士に「内容証明を借主に送るなどの交渉を依頼」することで、借主さんに状況を正しく判断してもらえる可能性があります。
借主さんも感情的になっているだけかもしれませんし、第三者である弁護士が間に入れば冷静になることも多いのです。
弁護士が内容証明を作成し先方と交渉する場合の費用は、土地の価値や依頼した弁護士にもよりますが、自宅用地の広さであれば十数万~数十万円ほどです。

話し合いが長引けば、長年暮らした土地での生活がしにくくなります。早い段階で弁護士や第三者に介入してもらうのもいいのではないでしょうか。

使用貸借事例(9)祖父がゴルフ場に長年貸していた土地、もし閉鎖されたら後始末は貸主持ちになるの?

祖父が亡くなり、母が相続した財産の整理を手伝っていると、土地をゴルフ場に30年の契約、無償で貸していたことがわかりました
しかし、自宅に残されていた大量の書類を確認しても、それらしき契約書は見当たらず、ゴルフ場に問い合わせてみました。
祖父は面倒見がよく、地域の皆から慕われていました。困っている人をみると放っておけず、お酒を飲んだ勢いの口約束で土地の一部を貸していたようなのです。
使用貸借事例のゴルフ場

使用貸借で貸しているゴルフ場が閉鎖されたらどうなるのか…後始末は誰がするの?

固定資産税も祖父が支払っていましたが、田舎の土地なので固定資産税もたかが知れています。とはいえ、ゴルフ場ができるほどの広い土地です。それなりの税金がかかりますし、無償で貸している土地の上にゴルフ場がある限り、他の用途には使えません。

そして、バブルの頃ならばゴルフ場の需要も大きかったものの、その維持費の負担の重さから、最近、手入れがなされていない様子も感じ取れます。そのことでますますさびれた印象になっています。
万が一、ゴルフ場が閉鎖されることになったら、その後始末は自分たちが請け負うことになるのではないかという不安です。

弁護士の解答:相続をきっかけに改めて契約するのがベスト!

昔は土地の価値が低く、今よりも気軽に土地の貸し借りをしていたようです。相続してみたら契約書もないままに使用貸借した土地だった、というケースが増えています。

契約書がなくても「使わせていた事実」で契約成立

このケースのように契約書がないが使用貸借である土地もあります。口約束のみで書類が残っていなくても、「地代の請求をせずに使わせていた事実」をもって、無断使用であったということにはできません

相続を機に改めて契約を

これまで無償で使わせてきたとはいえ、これからもそうしなければならないというわけではありません。相続を機に、ゴルフ場と契約を交わした方がいいでしょう。
固定資産税も払わずにこれまで土地を使ってきたのですから、少なくともその分の請求はできるはずです。
使用したすべての期間に対して請求するのは難しいのですが、消滅時効にかかっていない分は請求できます。

ゴルフ場が継続して使うなら地代を請求する

ゴルフ場経営を今後も続ける希望があるのなら、賃貸借契約を結び、地代を請求します。孝さんやお母様が土地を使う予定がないのなら、ゴルフ場への売却も検討しましょう。
ゴルフ場を続ける気がない場合も、使用貸借契約が終了する際には、借主には原状回復義務があるので、ゴルフ場施設の撤去を求められます。

ゴルフ場が倒産、廃業する前に土地の権利を明確にしよう

この先、お母様が亡くなり、孝さんが相続する頃には、ゴルフ場の経営者にも相続が起こっているでしょう。そうなってしまうと、解決がますます困難になってしまいます。
万が一、ゴルフ場が倒産・廃業してしまうと、その施設の撤去費用などは、孝さんが処分費用を負担せざる得ない状況に陥ります。
そうなる前に、ゴルフ場と話し合い、契約を交わすことが重要です。

使用貸借を正しく理解してかしこい土地活用を

使用貸借は、赤の他人同士で行うものではないからこそ、問題が起こった際の対応に苦慮することが多い傾向にあります。使用貸借を始める場合は、のちのちのトラブルを避けるため、「身内であっても契約書を取り交わす」「日頃から家族間で想いを共有しておく」などの対策をおすすめします。

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底地とは

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