2020年スタートの配偶者居住権で相続税が節税できる?意外な落とし穴とは

2020.05.27

2020年4月にスタートした配偶者居住権は、わかりやすく言えば、夫に先立たれた妻(※)が、夫名義の自宅に安心して住み続ける権利です。「夫の死後も自宅に住めるのは当たり前では?」と思う人もいるかもしれません。後ほど詳しくご説明しますが、実は必ずしもそうとは限らないのです。

また、配偶者居住権を利用することで相続税が減らせる場合もあるので、妻ばかりでなく、妻と一緒に相続人になる子どもの側にもメリットがあります。ただし、制度をよく理解せずに利用すると、意外な落とし穴にはまってしまうおそれも。

そこで今回は、配偶者居住権とはどのようなものなのか、配偶者居住権と相続税の関係、そして、配偶者居住権で注意すべきポイントについて、わかりやすくご紹介します。

※配偶者居住権は、(1)「夫に先立たれた妻が夫名義の自宅に住んでいる場合」(2)「妻に先立たれた夫が妻名義の自宅に住んでいる場合」のどちらでも利用できます。本記事では、わかりやすくするため(1)を前提にご説明します。

カギを渡す男性

配偶者居住権ってどんなもの?

配偶者居住権を設定することで、夫に先立たれた妻は、遺産分割を理由に住み慣れた自宅を手放す必要がなくなります。また、遺産のほとんどを自宅が占めるケースであっても、自宅に住む権利を相続した妻が、さらに、生活費となるその他の資産も相続できる(※)のです。

※60代、70代などの高齢の妻を想定しています。後ほど配偶者居住権を設定すると、自宅の権利が「住む権利」と「所有する権利」の2つに分けられるで詳しくご説明しますが、配偶者居住権は妻の年齢が高いほど、金銭的評価が低くなる仕組みです。20代などの年若い妻の場合、配偶者居住権の金銭的価値が高くなるので、居住権以外の資産を多く相続することは難しい可能性があることにご注意ください。

これまでの制度では、妻が自宅に住み続けたいと望んだとしても、それが叶わないケースもありました。具体例でみてみましょう。

夫の死後、住み慣れた自宅を出ていくことになってしまったA子さん

A子さんは、亡くなった夫がのこしてくれた6,000万円の自宅と4,000万円の現金を、息子と娘の3人で相続します。法定相続分どおりに分けると決め、総額1億円の遺産をA子さんが5,000万円、息子・娘が2,500万円ずつ相続することになりました。

配偶者移住権の法定相続分

1億円すべてが現金であれば遺産分割もたやすいのですが、うち6,000万円は自宅という、そのままでは分割が困難な不動産です。自宅をA子さんと子どもたちの共有状態にするという方法もありますが、不動産の共有にはリスクも大きいので、できれば避けたいもの。そこでA子さんは、自宅を分けやすい現金に変えるため、売却という手段を取らざるを得ませんでした。

住む場所はあっても、生活費が手元に残らないというリスクも

かりに、遺産にあと2,000万円多く現金があれば(総額1億2,000万円)、A子さんが自宅6,000万円ぶんを相続し、息子と娘が現金を3,000万円ずつ相続する、という方法もありました。この場合は、自宅を売却せずに済むというメリットがある一方、自宅の他に遺産を受け取れないA子さんは今後の生活に困窮してしまうおそれがありました。

配偶者移住の自宅以外の遺産はもらえない

このように、遺産のなかで「自宅」の占める割合が多い相続では、のこされた妻にとっての懸念事項は大きかったのです。

「親子関係がよくない」「息子の嫁と不仲」妻が自宅を手放さなければならない事情はさまざま

仲のよい親子であれば、「家は私が相続するけど、今まで通り、お母さんが住んでね」ということもあるでしょう。また、遺産は相続人全員の合意があれば、どのように配分してもよいので、「遺産全部をお母さんに」となることも多くあります。

しかし、残念ながらすべてのケースでそう上手く行くわけではありませんし、揉めた場合は基本的に、法定相続分のとおりに遺産を分割します。そうすると、上記のようなトラブルが起こるというわけです。
嫁姑問題

夫を失ったばかりの妻が、住み慣れた自宅を引っ越し、新しい住まいを見つけるのは大変なストレスがかかるもの。さらに、高齢であれば年齢を理由に賃貸物件を借りることが難しいこともあります。妻にとって、自宅を手放さなければならないことは深刻な問題でした。

そこで、このような問題を解消するために配偶者居住権が創設されたのです。では、配偶者居住権の仕組みを詳しく見てみましょう。

配偶者居住権を設定すると、自宅の権利が「住む権利」と「所有する権利」の2つに分けられる

配偶者居住権の最大のポイントは、自宅を「住む権利」と、「所有権」に分けたうえで、「住む権利」を妻が、「所有権」を子どもなどその他の相続人が相続する、ということ。

遺産分割においては、配偶者居住権が金銭的にいくらになるのかを評価したうえで、妻の取り分に反映させます。先ほどのA子さん一家で考えてみましょう。

配偶者居住権を使用したらどうなる?A子さんの例

A子さんの自宅を配偶者居住権と所有権の2つに分けたところ、配偶者居住権には2,000万円の価値があることがわかりました。つまり、所有権の価値は、6,000万円から配偶者居住権ぶんを引いた4,000万円ぶんと評価できます。
配偶者移住権(夫が亡くなった)
A子さんは居住権(2,000万円)を相続し、息子と娘は所有権(4,000万円)を相続します。A子さんの法定相続分は5,000万円でしたので、居住権の他に3,000万円の現金も受け取れます。
夫の遺産の合計金額例

こうして、A子さんは3,000万円の生活資金を持って自宅に住み続けることができ、息子と娘はそれぞれ、家の所有権(2,000万円)と現金500万円を相続することになるのです。自宅はいったん子どもたち2人の共有状態になりますが、将来A子さんの相続が起きた時点で売却することで、それも解消できます。

配偶者居住権の金銭的価値はどうやって決めるの?

配偶者居住権がいくらに相当するのかは、法務省の公表している「簡易的な評価方法」にのっとって計算するか、不動産鑑定士などの専門家に評価を依頼します。基本的に、居住権の評価額は、自宅全体の評価額よりも少額に抑えられるようになっています。

「簡易的な評価方法」は、建物の相続税評価額や耐用年数、居住権を何年ぶん設定するかなどをもとに計算します。配偶者居住権は、期間を自由に定めて設定できるのですが、「死ぬまで住み続けたい」という場合は終身の配偶者居住権になります。

終身タイプの配偶者居住権では、平均寿命と妻の年齢の差が居住権の設定年数になるので、妻が若いほど居住権の金銭的価値も高くなり、逆に、高齢になるほど安く評価されます。つまり、若い妻よりも高齢の妻の方が、居住権の他の遺産も相続しやすくなるということです。

配偶者居住権を設定するにはどんな手続きが必要?

配偶者居住権は、夫が遺言で指定した場合や、妻が希望して他の相続人が合意した場合などに、任意で設定するものです。配偶者居住権を設定するには2通りの方法があります。

(1)夫が遺言で妻に配偶者居住権を遺贈する
(2)夫の死後、妻が他の相続人と遺産分割協議をして配偶者居住権を取得する

いずれの場合も、妻は夫の死亡時に夫名義の建物に住んでいる必要があります。

配偶者居住権を設定するのは夫の死後でも間に合いますが、妻にスムーズかつ確実に配偶者居住権を取得させたいのなら(1)が確実です。(2)では、妻自身が他の相続人に対して配偶者居住権を主張する必要があり、遺産分割協議が調わないときは、家庭裁判所に申立てをすることになるからです。

また、設定した配偶者居住権を守るためには、「登記」も必要です。

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配偶者居住権を利用すると相続税が減らせる場合がある

残された配偶者が住まいと生活資金に困ることのないように、との趣旨で設けられた配偶者居住権ですが、制度を利用することで、結果的に節税につながることがあります。それは、夫の遺産を受け継いだ妻が亡くなる「二次相続」が起こった時です。

配偶者居住権で減らせるのは、二次相続の相続税

配偶者居住権は配偶者の死亡によって消滅するというルールがあり、相続することはできません。そして、配偶者居住権が消滅した後は、所有権を持っていた人が自動的に、その不動産の権利を100%所有することになります。
配偶者移住権
先ほどのA子さん一家の例で、A子さんが亡くなった時の相続を考えてみましょう。A子さんは2,000万円ぶんの価値のある配偶者居住権を所持していましたが、この権利はA子さんが亡くなったことによって消滅します。つまり、A子さんの遺産総額は、現金で相続した3,000万円のみになり、基礎控除額を下回るため、相続税がかからなくなるのです。

息子と娘は、総額6,000万円の価値のある自宅を、実質非課税で手に入れられました。もし、最初の相続の時にA子さんが自宅を売却して5,000万円ぶんをすべて現金で相続していたら、子どもたち2人には相続税が課されていた可能性が高いでしょう。

必ずしも節税にならないケースもある

ただし、配偶者居住権を利用して二次相続で子どもに自宅を渡すことが、すべてのケースで節税になるとは限らないことも知っておきましょう。

例えば、夫、妻の順番で亡くなったとして、妻が夫よりもかなり多額の財産を持っている場合、妻が亡くなった時の方が相続税の税負担が重くなります。相続税は累進課税なので、税率の高い部分をできるだけ減らした方が節税効果が高くなります。したがって、妻の遺産を減らすため、自宅は、最初に夫が亡くなった時点の相続で子どもに移転させた方が得策なのです。

二次相続まで見据えて配偶者居住権を設定する場合、節税になるかどうかの判断はかなり複雑になるので、税理士などの専門家に相談する方が良いでしょう。
チェックする男性

安易に配偶者居住権を設定すると意外な落とし穴も

妻の生活を守るために役に立つだけではなく、相続税対策にもなる可能性がある配偶者居住権ですが、制度を利用する前に、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。配偶者居住権を設定した自宅は、売却しづらくなるということです。

高齢になった妻が、老人ホームの入居費用にあてるため、自宅を売却したいと考えることもあるでしょうが、この時、配偶者居住権が大きな足かせとなってしまいます。

配偶者居住権がついたままの建物は、実質的に売却できない

配偶者居住権のついている自宅を売却することは理論上は可能ですが、実質的には、そのような物件に買い手がつく可能性はほぼゼロです。なぜなら、売却によって自宅の所有権を持つ人が変わっても、配偶者居住権を持っている妻は、引き続き、家賃などを支払わずその物件に住めるからです。常識的に考えて、このような物件を購入したい人はいないでしょう。

もちろん、自宅についている配偶者居住権を取り去ってしまえば売却できるのですが、実はこれも一筋縄では行きません。
頭を抱える電話の女性

一度設定した配偶者居住権は、「途中で止める」のが難しい

配偶者居住権を簡単に中断できないのは、その独特なルールゆえです。

譲渡も売却もできない

配偶者居住権は、配偶者という特別な立場の人のみが利用できる権利なので、金銭的価値があるとはいえ、他人に譲り渡したり、売却したりすることはできません。もし「死ぬまで自宅に住めるように」と終身の配偶者居住権にしている場合、原則として、妻が亡くなる時まで、配偶者居住権は存続します。

途中解除したら贈与税までかかる

終身の配偶者居住権であっても、妻の合意があれば解除・放棄することは可能ですが、この場合、自宅の所有権を持つ人が贈与税を課されてしまうことに注意が必要です。「配偶者居住権を利用すると相続税が減らせる場合がある」でご説明した通り、配偶者居住権が消滅すると、所有権を持っていた人が、その不動産の権利を100%所有します。これはつまり、自宅の所有権の価値がアップするということ。したがって、所有権を持っている人は、配偶者居住権を解除する場合、それに見合う対価を妻に支払わなければ、配偶者居住権の価値のぶん贈与を受けたとみなされ、贈与税を課されてしまうのです。

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配偶者居住権を設定するなら慎重な検討を

あまり仲の良くない親子間で活用するイメージのある配偶者居住権ですが、相続税節税の観点からは、実は、仲の良い親子においても利用価値はありそうだと言えます。ただし、一度設定した配偶者居住権は、簡単には解除できないため、いざ自宅を売却したくなった時には思わぬトラブルを招くおそれも。利用にあたっては慎重に検討することをおすすめします。

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