【弁護士監修】借地人の借地条件変更申立は認められるか?|判例解説:借地非訟
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借地契約を結ぶと、借地人さんは地主さんの承諾無しに、借地条件に反する建物を利用することはできません。
地主さんの立場からすれば、無断で契約内容(前提)を変えられてしまうのは困ります。借地人さんの立場からすれば、借地条件の承認を得ることができなければ、打つ手がありません。このように、借地条件をめぐる当事者間の利害対立が発生することは少なくありません。
当事者間の話し合いで解決することができれば問題ありませんが、場合によっては、協議が折り合わず、裁判にいたるケースもあります。
今回は、借地人さんが借地条件変更の申立を行い、その申立を抗告した地主さんとの間で行われた裁判事例をご紹介します。
ぜひ、最後までお読みください。
目次
借地条件の変更制度
裁判事例を紹介する前に、その前提となる知識として借地契約における「借地条件の変更制度」について説明します。
借地契約では、土地上の建物について、以下の制限を設定することが多くあります。
- 建物の種類(堅固建物、非堅固建物)※
- 建物の構造(例:木造、鉄骨造り、コンクリート造り、など)
- 建物の規模(床面積や建物の高さ)
- 建物の用途(住居、店舗、事務所・オフィスなど)
※不動産登記法44条1項3号・不動産登記規則113条1項と同義であると解して、建物の主たる用途によって区分されるとする見解もあります。
借地人さんが地主さんに無断で制限に違反する建物を建てた場合、借地契約の解除原因となります。
したがって、借地人さんが当初の借地条件に反する建物を建築しようとするときには、まず地主さんに承諾を得ることが必要です。
この場合、地主さんの立場からすると、借地条件の変更を無料で承諾することはまずありえません。例えば土地上の建物が変わることで、借地契約終了時に求められる建物買取の金額が高騰することも想定できるからです。
借地条件を変更することは、当初の契約の前提が覆されることを意味するので、借地条件の変更を承認する場合、地主さんとしては借地条件変更承諾料を請求するのが一般的です。
この時、地主さんと借地人さんとの間で、話し合いがうまくまとまれば問題はありません。しかし、承諾料の支払いで折り合いがつかなかったり、そもそも地主さんが借地条件の変更を承認したくない場合もあります。一方借地人さんの立場からすれば、地主さんの承認が得られない場合、どうしようもなくなります。
このように借地条件の変更について当事者間で協議が折り合わない場合、借地人さんの権利を保護する目的で、地主さんの承諾がなくとも裁判所の関与により借地条件の変更を可能とする制度を設けています。この制度のことを「借地非訟(しゃくちひしょう)」と言います。
◆用語解説:借地非訟(しゃくちひしょう)
借地非訟とは、借地借家法に規定された法的手続きのことです。地主さんの代わりに裁判所で認めてもらうことにより、地主さんの承諾がなくても、借地人さんは様々な権利の譲渡や売却、借地上の建物の建築・増改築が行えるようになります。
借地非訟には、以下のような種類があります。
- 借地条件の変更
- 増改築の許可
- 土地賃借権の譲渡又は転貸の許可
- 建物競売等の場合における土地賃借権の譲渡の許可
- 建物及び土地賃借権譲受の許可
借地条件変更の申立が認められる条件
借地非訟手続きをすることで、借地人さんは地主さんの承諾を得ることなく、借地条件変更をすることができます。
ただし、借地条件を変更するためには以下の2点の要件をおさえる必要があります。
- 建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件が存在すること(形式的な要件と言われます)
- 法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化、その他の事情の変更等により、借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であること(実質的な要件と言われます)
つまり「法令が変更されたり、周辺の土地利用状況が(契約当初と)変わることで、もし仮に現時点で借地権を設定した場合は、現状の借地条件と異なる建物を建てたはず」という合理性がある場合に限り、借地条件変更が認めらるのです。
以上のポイントを踏まえた上で、
- 借地権の残存期間
- 土地の状況
- 借地に関する従前の経過
- その他一切の事情
以上の点を考慮して、借地条件を変更できるか否かを総合的に判断することになります。
【判例紹介】借地人の借地条件変更は認められるか
それでは、裁判事例をご紹介していきましょう。
本裁判は高等裁判所(二審)となります。一審では、借地人さんの借地条件変更の申立が認められました。一審の結果(原決定)を不服として、地主さんは抗告。本裁判では「借地条件変更申立の可否」を争点に争われました。
概要
非堅固な建物所有を目的とする借地権を、堅固な建物所有を目的とする借地権に変更を求める、借地人の申立を棄却した事例
◆賃貸借契約の内容
賃借人(借地人)が以下の行為をなす場合は、事前に賃貸人(地主)の書面による承諾が必要である。違反したときは賃貸人は無催告で賃貸借契約を解除できる。
- 土地を木造スレート葺工場の敷地以外に使用するとき
登場人物
- 抗告人:土地の賃貸人(地主)
- 相手方:土地の賃借人(借地人)
前提となる事実(背景)
借地人は金属板、陸舶用汽罐等の製造販売等を目的とする株式会社である。主に船舶用ボイラーの製造及び販売を業として、建物を船舶用ボイラーの製造工場として使用してきた。
その後、造船不況の影響で船舶関係の業務を縮小。それに合わせて多角経営を図るため、会社の目的の中に不動産の賃貸及び管理業を加えた。
今後はその工場を閉鎖し建物を取り壊し、その跡地に本件土地と隣地に鉄骨・鉄筋コンクリート造りのマンションの建築を計画中である。
そのため、本件賃貸借契約の目的を非堅固建物所有から堅固建物所有とすべく、本件借地条件の変更を申し立てた。
抗告人(地主)の主張
抗告人(地主)の主要な主張の構成要素は以下の通りです。
- 「当事者間の利益の衡平を図る」ことを考慮要素としている借地法8条の2第3項に違反
原決定は、貸主(地主)の利益を不当に奪い、借地人であることを主張する相手方(借地人)を不当に利する判断をしている。 - 借地権の不存在
原決定は、判断の前提である借地権の存在があるにもかかわらず、その点を十分な審問を行わないまま借地権の存在を認定している。 - 相手方(借地人)の権利濫用
借地人は、過度に保護された立場を悪用し金儲けのために本件申立を行ったもので、その申立は借地人の権利濫用であることは明らかである。
相手方(借地人)の主張
- 建物は十分使用に耐え得るものであり、建物と借地権の将来の利用方法について検討中の段階である。今回の借地非訟事件の申立は借地権を有効に活用するため、法によって認められた正当な権利を行使している。
- 借地人は堅固建物の建設計画を有し、資金力も十分備えている。
裁判所の判断
借地条件変更の裁判をするにあたっては、以下の点を考慮する。(借地法八条ノニ第四項)
- 借地権の残存期間
- 土地の状況
- 借地に関する従前の経過
- その他一切の事情
前項を踏まえた上で、以下の点を考慮、検討する。
- 本件建物は、約55年前に建築されたもので、現在ではかなり老朽化しており、措地権は、近い将来、建物の朽廃により、消滅する見込みである
- 相手方の代表者ないし相手方は、建物の敷地として土地を賃借し、現在まで約43年間にわたり土地を賃借し続けている。その借地期間は、相当長期である
- 土地はもともと工場用建物の敷地として、非堅固な建物所有を目的として賃貸されたもので、この目的以外に使用しない旨の特約がある。
- 借地権はそれほど遠くない時期に、建物の朽廃により終了する見込みである。借地人が建物を取り壊して堅固な建物である鉄骨鉄筋コンクリート造マンションを建築すれば、土地の賃貸借契約の期間は少なくとも30年となり、更に30年後には、これが更新される見込みである。
- 建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件が存在すること(形式的な要件と言われます)
- 法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化、その他の事情の変更等により、借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であること(実質的な要件と言われます)
- 当初の契約目的とは全く異なる建物への建替えを求めた場合
- 近い時期に建物が朽廃に至ると判断された場合
- 契約残存期間が1年を切っており契約更新が認められない可能性が十分にあった場合
◆結論
その他認定の諸事情(多額の権利金や更新料の支払いがなかったこと等)を総合して考えると、非堅固な建物である建物の所有を目的とする土地の借地権を、堅固な建物所有を目的とする借地権にその借地条件を変更することは相当でないとして、原判決取消・申立てを棄却する。
弁護士のワンポイント解説
Q:本事案で、借地人の申立が棄却された判決のポイントは何でしょうか?
A:本事案では、建物が老朽化しており、近い将来に建物の朽廃により借地権が消滅する可能性が高かったことがポイントだったと考えられます。
旧借地法下では、そもそも非堅固の建物の所有を目的とする借地権と堅固の建物の所有を目的とする借地権との存続期間が異なっていました。加えて、堅固建物を建築した場合には、(判決文でも指摘があるとおり)その後の借地契約の更新も想定されます。
このように、堅固な建物の所有を目的とする借地権への借地条件の変更を認めるか否かで借地権の存続期間に大きく影響するという点を特に考慮したものと考えられます。
Q:借地条件の変更が認められる条件は何でしょうか?
A:借地条件の変更が認められる要件は、以下2点です。
Q:借地条件の変更は、どの程度認められるのでしょうか?
A:基本的には、変更と同時に承諾料の支払や地代の増額等を命じることで、借地条件の変更が認められると思われます(借地借家法17条3項参照)。
Q:承諾料の相場のようなものはありますでしょうか?
A:承諾料については、東京地裁の一般的な取り扱いとして、非堅固建物所有目的から堅固建物所有目的への条件変更の場合には、更地価格の10%相当額が基準とされています。
まとめ
今回は、地主さんの承諾がなくとも裁判所の関与により借地条件の変更を可能とする制度、借地非訟(しゃくちひしょう)にまつわる判例をご紹介しました。
借地非訟は、借地条件の変更以外にも、様々な権利の譲渡や売却、借地上の建物の建築・増改築に関わる要求を借地人さんが地主さんに行い、この承諾が得られない場合に行われます。
借地人さんは裁判所に申し立てをし、裁判所はお互いの事情などを考慮しながら、許可していいか、してはいけないのかを判断します。
本記事の判例では、抗告人である地主さんの主張(借地条件の変更を認めない)が裁判で認められました。
今回の判決の理由(背景)は以下の点があげられます。
逆に言えば、こうしたよほどの事情がない場合、借地人さんによる借地条件変更の申立が、基本的には認められることも、地主さんの立場として認識しておきましょう。
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