【事例で見る】農家の相続~農地を分散させないために~

2019.10.18

ご先祖様が守り続けた大切な土地。今後もずっと守りたいと思っている地主さんも多いのではないでしょうか。そうはいっても相続税の負担が大きくなった昨今、その支払いのために泣く泣く土地を手放さねばならないこともあります。
最近の地主さんは土地を守ることだけにこだわらず、土地を売って収益資産に組み換えたり、土地活用することを考えたりする方も増えてきました。
しかし、農地の場合は、手放してしまうと家業が成り立たなくなるので、そういうわけにはいきません。農家にとって土地はなくてはならない一番の財産なのです。
今回は、農業を継続する予定の農家にどんな対策ができるのか、事例を交えてご説明します。
農家

祖父が亡くなり孫が農地を代襲相続した事例

先祖代々続く、農家の事例です。祖父が高齢で農業に従事することが難しくなったので、長男が後を継ぎました。そして、その子である孫と二人で仕事に励んでいました。
ところが数年後、長男が祖父より先に63歳で亡くなり、それからは孫が一手に仕事を引き受けていました。

相続人は5人

その状況で、祖父が85歳で亡くなりました。相続人は長男・次男・長女・次女・三女の5人です。しかし長男はすでに亡くなっているので、代襲相続で長男の子(孫)が相続人です。子は一人だったので代襲相続人はこの孫だけでした。
この地域の農家では、後継ぎがほとんど全ての財産を相続するという長子相続的な遺産分割が大半です。この家でもそのような方針が示されていました。そうでなければ農業経営が続けられないからです。
この農家の後継ぎは28歳の孫です。祖父や長男がいれば他の兄弟も暗黙の了解を覆がえしはしないと思われますが、抑止力になるはずのその二人はもういません。いざ遺産分割の話になり、若い孫が強く出られないのを見ると、要求も大きくなってきました。

農家の代襲相続

農家の後継ぎである若い孫への要求

次男からは借金の返済資金、自宅の買い替え資金として数千万の要求がありました。長女・次女・三女も、独立や結婚の際にすでに相応の資産を受け取っていたにもかかわらず、相続権を主張し始めます。

お金で解決するのなら支払ってしまった方が楽ですが、このケースの場合は、納税資金やそれぞれへの分配を考えると、かなりの土地の売却を余儀なくされます。
そうなると農業の継続が不可能となってしまうのです。

根気強く話し合いを

こうなると、根気強く話し合いをするしかありません。
孫がその他の相続人に、「農業の継続が祖父の意思であること」「後を継ぐ前提で農業に従事し、父亡き後も精一杯やってきたこと」「希望額を分配すると農業継続が不可能であること」などを説明しました。
結局、次男にはかなりの資産を分配することになりましたが、農業継続は可能な範囲で済みました。
話がこじれたら裁判になってもおかしくない状況でしたので、深刻な「争族」になれば農業も続けられず、家族同士も断絶する最悪の事態が想定されます。この程度で済んだことは大きな成果でしょう。

農家の相続で重要なのは農地を「分けない」こと

相続人の一人が家業を継ぎ、農家を続ける予定がある場合、一番大切なのは「農地を分割しない」ことです。上記の例のように相続人が複数いると、「農地を切り売りして分配しよう」となりがちです。
しかし、分割したり、一部を売却したりすると、農業の継続が不可能になります。それを避けるためにはどのような対策を取ればいいのでしょうか?

遺言書

遺言作成や家族信託をしても安心しないで。遺留分請求されたら分割せざるを得ない

被相続人が農業の継続を望み、指定した後継ぎに「すべての財産を長男に残す」と遺言を遺したとしても、必ずしもそれが叶うとは限りません。
相続税を支払ってもなお金融資産が潤沢にあれば話は別ですが、そうでないのなら安心してはなりません。遺言に記しても、法定相続人には遺留分があります。遺留分とは、法定相続人が最低限の遺産を受け取る権利のことです。これを侵害することはできないのです。

遺留分は法定相続割合の二分の一なので、今回のケースでは、
1/2 × 1/5 = 1/10
となり、それぞれの遺留分は遺産総額の十分の一になります。
この遺留分については、いくら遺言に記載があっても受け取る権利のある分です。遺留分侵害額請求(旧 遺留分減殺請求)をされると渡すしかありません。これは相続開始後、遺留分が侵害されていると知った時から1年以内に請求しなければならないので、それ以降の申し出には法律上は応じなくてよいことになります。
また、遺留分の侵害を知らなかった場合も、相続開始後10年経つと受け取る権利は消滅します。

【参考記事】
相続時の遺留分とは?

日本にとっても農業の継続は重要事項 「農地の贈与税の納税猶予」の利用を検討しよう

日本の食料自給率は37%。農業の継続は、国としても重要な課題です。日本の農地面積は緩やかですが減少傾向、後継ぎがいない農家も多く、若い力を応援する動きがあります。
そこで利用したいのが「農地の贈与税の納税猶予」です。これは最終的に贈与税が全額免除になるという大きな特例です。
農地の贈与税納税猶予制度は、昭和39年に創設されました。この制度は「農業後継者の育成等を税制面から支援する」目的があります。
この制度を利用するにはまず、兼業を含む農業従事者が、推定相続人である後継者に農地を一括贈与します。その後、受贈者が農業を継続していれば贈与税の納税が猶予されます。
最終的に当初の農業従事者が亡くなると、その贈与税が正式に免除されるというものです。
ただし、それまでに農家を廃業したり、農地を宅地に転用したりすると、猶予されていた贈与税の全額プラス利子税まで徴収されることになります。
確実に農業を継続しようと思っているのなら、この特例の適用を受けることをおすすめします。

贈与していなくても農家には相続税の猶予特例もある

また、生前に贈与をしていなかった場合でも、農家さんには「相続税納税猶予の特例」があります。この先もずっと農業を続けるのであれば、ぜひ利用したい特例です。また生産緑地制度を利用している場合に相続が起こると手続きが必要になります。
こちらについては以下の記事をご参照ください。

【参考記事】
通常の不動産とはちょっと違う?「農地」の相続手順

2022年問題リミット目前!「生産緑地」の相続・土地活用で気をつけたいポイント

相続発生前に農家継承者本人が家族に話しておこう

前項で述べた「農地の贈与税の納税猶予」は確かに農業継続には心強い特例ではありますが、相続人が複数いるとそう簡単に踏み切れるものではないかもしれません。

もし農地を生前に贈与することができなかったとしても、後継者不在に苦しむ農家が多い中、それを継ぐと強い意志を示す推定相続人(相続発生時、相続人となることが推定される人)がいれば、家族もそれを応援したくなるのではないでしょうか。
もし、これに異を唱える家族がいるのなら、相続発生前に農業継承者本人がその人の説得にあたり、推定相続人全員に「農地のすべてはこの継承者に相続させる」旨を宣言しておくことが大切です。
日本家屋

遺言が有効に働くケースも

こういった場合は遺言をのこすことも有効に働きます。いくら財産を持つ人から宣言されていても、亡くなった後に「やっぱり取り分が欲しい」と思うのが人間です。
そうなったときに遺言があると、それぞれ法律的には遺留分の規定があるものの「事前に本人から説得され遺言にも書かれていたにもかかわらず、それに背いて遺留分を行使する」というのはよほどのことがない限りなされないからです。
もしくは前もって、遺留分には届かずとも財産を分けると遺言に記しておくのもいいでしょう。

しかしこれは純粋に「農家を継ぎたい」という意思がある場合の話です。「一応、農家を継ぐという体裁だけとって、いずれは農地を高値で換金したい」と考えていたり、それが疑われたりするのであれば、かえって場が紛糾する可能性があります。農業継承させたいのであれば時間を取って、相続発生前に相続人全員に意思確認をしておきましょう。

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