【弁護士監修】2020民法改正で消滅時効が変わった!?地主さん必見!知らないと損をする時効の仕組み
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2020年の民法改正に伴い、債権法が改正されました。今回改正されたものの一つが「消滅時効」です。
時効制度は、「法律上の権利者が権利を行使しない状態が長く続いた場合に、その権利の主張が認められなくなることがある」とするものです。つまり、法律上の権利があるとはいっても、 いつまでも権利の保障がされるわけではなく、適正に権利行使をする必要があるということです。
「借地人に土地を貸していたが、地代の支払いが滞っていた。地主は、取りたてもせずに放っておいた。10年後、借地人から消滅時効を主張され、過去の地代を支払ってもらえなくなった」というような事態が起こり得るということです。
現実的に考えると、長年にわたる地代滞納があれば、土地を明け渡してもらうのが通常ではありますが、地主の病や相続などが絡み、結果的に放置されてしまうこともあります。
底地・借地関係を結んでいた場合の消滅時効はこれまでと同じ5年ではありますが、そもそも消滅時効について、よく知らないという地主さん、借地人さんも多いのではないでしょうか?
今回は、知らないと損をするかもしれない、消滅時効について解説します。
目次
債権・物権ってなに?
法律を勉強していると「債権」「物権」という言葉がたびたび出てきますが、一般の方にはあまり馴染みがない言葉かもしれません。
消滅時効は債権にかかわる時効です。本題に入る前に、債権と物権についてご説明します。
債権とは
債権は特定の人が他の特定の人に、特定の行為をすることを請求する権利で、物を直接支配できる権利ではありません。賃借権や使用貸借権、賃金支払請求権、損害賠償請求権、地代の支払請求権などが債権に該当します。
例えば、地代の支払請求権は、地主さんが借地人さんに地代を支払うことを請求する権利です。
物権とは
所有権、地上権、地役権、抵当権(担保物権)などが物権です。物を直接的かつ排他的に支配できる、非常に強い権利です。
債権と物権の違いは?
物権は、自分の物が他の誰かに侵害された場合、誰に対してもその権利を主張できますが、債権は、契約した特定の相手に限られるというところが大きな違いです。
ただし、とらえ方によってはどちらとも言える場合もあるため、判断が難しいこともあります。
借地借家法は特別扱い?
借地借家法で規定されている賃借権は債権です。しかし、借地人さんが家を建てる土地を借りると、車の貸し借りやマンションの賃貸とは違い、「第三者に対して権利を主張する」ことができます。
本来、賃借権は、「借りた土地に家を建てて使う権利」や「家自体を借りて使う権利」ですが、そこに住まう権利が強く保障されています。
賃借権は債権でありながら、強い権利を有し、借地借家法の改正がなされた現在でも「賃借権の物権化」と言われることもあるほどです。
地主さんにも債権って関係しているの?
地主さんに関係する債権というと、地代の支払い請求権が真っ先に思い浮かびます。このあとご説明しますが、債権には「消滅時効」があります。期間は5年。地主さんが地代滞納をされて、5年放っておいたら、地代を請求する権利がなくなってしまうかもしれないということです。
ではここから本題に入って、消滅時効についてお話しします。
時効とは?
「時効」と聞くと、刑事ドラマの「時効」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、今回扱う時効は、民法上の債権の時効であって、刑事事件の時効とは別物です。
債権の時効には、消滅時効と取得時効の二種類があります。このうち法改正があったのは、消滅時効についてです。
改正前の「消滅時効」はどうだった?
改正前、消滅時効の期間は10年でしたが、条件によって違いがありました。
例えば、賃貸借契約に基づく賃料支払請求権の時効は改正前民法169条で規定されていた「定期金債権」であるため、通常の10年(民法167条)より短い5年の時効期間が設定されていました。
そのため、地主さんの立場からすると、法改正されたものの、時効期間は旧法と同じ5年です。
それ以外にも、弁護士費用、医師の診療費、飲食代などについては消滅時効の年数が個別に設定されていました。
改正以前の民法は、昔からずっと変わらずに使われてきました。そのため、現代にはそぐわないものになっている部分もありました。また消滅時効については、「合理的な根拠が不明」「ややこしい」と指摘されていました。そして今回の改正に至ったわけです。
地主さんにかかわりのある賃借権では、法改正による変更はないものの、そもそも「消滅時効」の存在を気に留めていない地主さんが多いのも事実です。
知らないと、地代を請求できなくなる可能性があるので、知っておいた方がいいでしょう。
地主さんが知らないと損をするかも!?「消滅時効」
今回の法改正により契約上の債権の消滅時効のルールが変わりました。ポイントは、消滅時効の年数が統一されたところにあります。
法改正で消滅時効の期間はどう変わった?
2020年4月に施行された法改正により、
・権利行使ができることを知っていて行使していない場合は5年(主観的起算点)
・権利行使ができることを知らずに行使していなかった場合は10年(客観的起算点)
と時効の期間がわかりやすくなりました。
消滅時効の期間を決める「知っていた」の判断基準
ここで重要なのは、何をもって「知っていた」とするかどうかです。
「知らなかった」と言い張れば、時効期間が延びてしまうということなのでしょうか。
もちろんそんなことはありません。地主さんにかかわる債権である賃借権は、契約を交わしていることがほとんどです。契約書がある以上「知らなかったはずはない」とみなされ、契約上の債権の消滅時効期間は5年間というのがセオリーです。
消滅時効、「知らなかった」というのはどういうとき?
客観的起算日の10年が適用されるのは、「債権が発生したことを知らなかった」ケースのみです。では、どのような状況で「知らなかった」が起こるのでしょうか。
基本的に賃貸借契約などは、契約書を交わしているので、その契約をもって「知った」とみなされます。「忘れていた」「親から相続したので私は知らない」などというのは通用しません。
「知らなかった」に該当する代表的なケースは、消費者金融に対する過払金返還請求権です。ラジオやテレビのCMでも最近耳にするようになりましたが、どういう権利なのでしょうか。
これは消費者金融からお金を借りた人が、法定利率を超えた額の返済を迫られ、過剰に支払いをしていた場合に、過払い部分の返還を請求できる権利です。
消費者金融でお金を借りた人が知らないのをいいことに、法外な利率で返済させられている場合があり、借金を返済した本人が「自分が余計に支払っている」ということを知らないことがあり得るのです。
初めは「知らなかった」が途中で「知った」。消滅時効の期間はどうなる?
債権が発生した当初はそのことを知らなかったが、途中で気づくこともあるでしょう。その場合の消滅時効の期間はどうなるのでしょうか。そういうときは5年と10年のどちらか、早いほうの期間で消滅時効が成立します。
例えば、2000年に発生した債権を「知らなかった」場合、そのまま10年「知らなかった」ら2010年に消滅時効が成立します。
しかし、2000年に発生した債権を「知らなかった」が、2003年に「知った」場合は、2008年に消滅時効となります。
先ほどの過払金請求権の例で考えると、お金を借りた人が払いすぎていることに気づいていなければ「知らなかった」、その後、気づいた時点で「知った」ことになります。
最後に支払いをした日から9年後に過払いに気づいたとしても、客観的起算点の時効10年が1年後に迫っているため、「知ってから5年」ではなく、先に時効が訪れる「借りた時点から10年」で時効が成立します。
「早急に手続きを」と言われるのはそんな理由からです。
賃借契約の消滅時効、どの時点から5年なの?
では、どこの時点から5年で消滅時効が成立するのでしょうか。
時効の起算点は債権の弁済期日ですが、正確にはその翌日です。
例えばその契約が2020年6月20日14時に契約書にサインがなされたら、起算点は2020年6月21日です。例外として午前0時に交わされた場合は契約日が起算点になりますが、現実的に考えると真夜中に契約することはあまりないので翌日と覚えておけばいいでしょう。
起算日が2020年6月21日だとすると、5年後の2025年6月20日が時効完成の日です。
賃貸借、更新が訪れたら起算点はどこから?
賃貸借契約に更新があった場合は、新法、旧法のどちらが適用されるかによって起算日が変わります。
まず、更新には合意更新と法定更新の2種類があります。
合意更新とは、契約期間満了が訪れ、契約の更新を希望する場合は新たに当事者間で契約を結ぶ契約形態です。法定更新は、期間が訪れたら法律に従って更新される契約形態を指します。
合意更新であれば、更新時に当事者が新しい契約について合意しているので、それが2020年4月以降ならば新法が適用されます。
法定更新は、更新時に当事者の合意があったとは言えないので、旧法が適用になるだろうと思われます。
時効の完成猶予と更新
今回の改正では、示す意味は変わらないものの、時効の「完成猶予」「更新」と、より分かりやすい言葉に変更されました。これまでは時効の停止・中断という言葉で記されていましたが、その内容を正しく示しているとは言えないということで改正がなされました。
また、時効の完成猶予の中に「協議を行う旨の合意」が追加されました。では詳しく見ていきましょう。
時効の完成猶予
時効の完成猶予には代表的なものとして、次の3つがあります。
・催告
・裁判上の請求
・協議を行う旨の合意
時効の完成が猶予されると、一時的に「完成しない状態」になります。ではそれぞれの内容を見ていきましょう。
催告
催告は債権者が債務者に「債務の履行を請求する意思がある」旨を通知することです。催告をどのように行うかは明記されていません。しかし証拠を残すために、内容証明郵便や配達記録郵便が使われます。
民法150条には「催告があったときは、その時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない」とあります。
例えば、時効成立の前日までに債務者に催告が到達していれば、その日から半年間は時効が完成しないということです。
催告による完成猶予は1度しか使えません。通常は催告をし、消滅時効の完成が猶予されている期間に裁判を起こす準備をします。半年間の猶予を終えると、元の時効期間の時計の針が動き出し、その間に何もしないと時効が完成してしまいます。
裁判上の請求
債権者が債務者に対して裁判を起こすと、裁判をしている間は消滅時効の完成は猶予されます。裁判は数年単位の時間を要することもよくあります。裁判が長い期間に及んだとしても、その間に時効期間が進むことはありません。
裁判で債権者の権利が認められると、そこからまた新たな時効期間が開始されます。裁判で債務者の権利が確定しているので、この場合の時効は、民法169条に規定されている通り、判決確定の日から10年となります。
協議を行う旨の合意
新しく追加された「協議を行う旨の合意」。この制度の利用は、イメージがしにくいかもしれませんが、例えばこんな場合に使えそうです。
・長年の付き合いのある会社に商品を納品していたが、いくら待っても支払いをしてくれない。しかし、先代社長には大変世話になっており、裁判を起こしたくはない。とはいえ、消滅時効を迎えてしまうともう取り戻せなくなってしまう。すぐに裁判を起こす気はないが、とりあえず協議を行う旨の合意を取り付け、消滅時効成立を回避したい
・親戚に土地を貸し、親戚はその土地上にビルを建て、商売をしている。しかし、ここ数年、業績が悪いらしく、地代を滞納されている。親戚であるし、少し業績が回復してきたようなのでもう少し待てば自主的に返済してくれるかもしれない。そのため裁判は起こさずに、協議を行う旨の合意をし、様子をみたい
上記のように、債権が消滅するのは避けたいが、今すぐに裁判を起こすことには躊躇している時に使えるかもしれません。
合意がなされると1年間、時効が猶予される
債権者と債務者との間で時効について協議を行うことが合意されると、時間の完成は1年間猶予されます。1年間時効が猶予されている間に、再度「協議を行う旨の合意」がなされれば、また1年間・・・、それを繰り返すと、本来時効が完成すべき時から最長5年、時効が猶予されます。
例えば、上の図のように、消滅時効の成立直前の4年11ヵ月と20日の時点で「協議を行う旨の合意」ができれば、1年間、完成が猶予されます。そして、その猶予された1年後の期限の一週間前に、再度、合意がなされれば更に1年、猶予されます。
合意と猶予を繰り返せば、最長5年、消滅時効の完成を猶予できます。
ただし、よほどの事情がなければ、お金の支払いを渋っている人が「協議を行う旨の合意」を行うとは考えにくく、支払いが滞ったら、催告や裁判上の請求に進むことが多いでしょう。
合意はメールでもOK 書面で残すなら合意書を作成
口約束でも合意は合意ですが、裁判などになったときに書面がないと証拠を示せません。協議を行う旨の合意は、通常書面で残します。この場合の合意はメールでも可能です(民法151条4項)。必ず残しておくようにしましょう。
メールは、メールサーバーなどを利用しているなら送信日時は動かせないので、データを保存しておけば大丈夫。ただし、データだけだと消滅する可能性があるので、プリントアウトしたものも一緒に残しておくといいですね。
時効の更新
時効の更新は、改正以前は「中断」と言われていた部分です。時効の更新には民法152条に規定される「承認」がかかわってきます。
「承認」すると消滅時効はリセット 1からやり直し
「協議を行う旨の合意」を行うと猶予はされますが、期間がリセットされることはありません。しかし「承認」がなされると消滅時効はリセットされ、1からやり直すことになります。
・一部でも支払いがなされた
・すぐには支払えないが、必ず支払うので待ってほしいとメールや手紙で伝えた
上記のようなことがあると、「債務があることを承認している」とみなされ、消滅時効はリセット、その日からまた新たな5年間を過ごすことになります。
協議を行う旨の合意は、「債務の金額や支払い方法についてすべて認めるわけではないが、協議はします」ということです。
承認は、「債務があることを認めています」とその時点で認める行為なので、消滅時効の期間が新たに始まるのです。
債務者とされる人が、もし身に覚えのないお金を支払えと言われているのだとしたら、ほんの一部でも支払いをしてはいけません。それをもって法律的には「承認した」とみなされてしまう可能性があります。
主張しないと消滅時効が認められない!?援用ってなに?
消滅時効があるとはいえ、時が経てば自動的に消滅時効が適用されるというわけではありません。
援用とは?
援用とは債権者(請求する側)に債務者(支払う側)が消滅時効を主張、意思表示をすることです。
「5年経ったから」といって、知らないうちに消滅時効が成立していた、ということはありません。
どれほどの時が経っても、債務者が援用をしなければ、時効は消滅しないのです。
どうやって援用するの?
援用は意思表示をすることなので、書面などで残すのが一般的です。具体的には内容証明を送ったり、裁判上で主張したりすることで意思表示(援用)します。
地主さんが何もせずに5年経ち、借地人さんに援用されると地代請求はできなくなる
地代滞納から5年経っている場合に、借地人さんが援用をすると、消滅時効が成立してしまいます。そうなると、滞納していた分の請求はできなくなります。
裏を返せば、借地人さんが事情があって5年以上家賃を滞納しているのなら、援用することでその債務を逃れられるということです。
援用は本人がしなければいけないのか
援用は必ずしも本人がしなければならない、ということではありません。援用によって直接利益を受ける者(援用権者)であれば行えます。そのため保証人や物上保証人など、消滅時効によって利益を受ける人は、援用権者になり得ます。
契約の段階で消滅時効の放棄を求めることはできない
契約を交わす時点で地主さんが「『消滅時効は使わない』と約束するなら契約してやる」というように、契約書に「消滅時効を使わない」と文言を入れたとしても、それは法律違反、無効になります。
時効の利益の放棄は、時効の完成前にはできないということです。
債権法の改正 消滅時効が効力を発揮するのは5年後の2025年から
2020年に改正した法律が効力を発揮するのは5年後の2025年からです。地主さんにかかわる消滅時効は改正後も5年と変わりがありませんが、後述する時効の完成などの条件により、今後問題になってくる可能性があります。
【重要なお知らせ】底地・借地・相続の件でこんな悩み・不安はございませんか?
このように、底地・借地を所有する地主さん、借地人さんの悩み・不安は尽きません。そんなときは、一人で悩むより、底地・借地の問題に精通した専門家に相談してみませんか。
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これまで多くの地主さん、借地人さんのご相談を受け、アドバイスしてきました。
以下、ほんの一例ですが、ご相談者の声をご覧ください。
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