借地人の名義変更と地主対応|代替わり時のトラブル回避術

借地に住んでいるご家族にとって、「借地人の代替わり」は避けて通れない重要な節目です。
親から子へ、あるいは親族や第三者に権利を引き継ぐとき、手続きをおろそかにすると地代の値上げや更新料のトラブルに発展することも珍しくありません。

たとえば

「先代のときは問題なかったのに、代替わりを機に地主さんから高額な承諾料を求められた」

「名義変更を後回しにしたせいで話がこじれてしまった」

などの声です。

本記事では、借地人さんの代替わりにまつわる手続きの基本から、地主さんとの関係を良好に保ちながら進めるコツ、そして予防すべきトラブルの具体例まで、わかりやすく解説します。

目次

借地人の代替わりが起きるとき

借地権の「代替わり」とは、これまで借地契約を結んでいた人から、相続人へ権利が移ることを指します。このとき、契約や支払いの条件が変わるだけでなく、地主さんとの信頼関係が大きく揺らぐきっかけにもなります。

特に相続では「当然引き継ぐはず」と思い込んでいた手続きが、思わぬトラブルに発展することも少なくありません。

ここでは、代替わりが生じる典型的なケースと、トラブルの例を交えながら解説します。

※実際のご相談をもとに一部内容を再構成しています。

相続・贈与・売却で代替わりするケース

ある地方都市で暮らすTさんは、長年父親名義の借地に住んでいました。父が他界し、自宅と借地権を相続することになりましたが、「相続だから地主さんへの承諾は必要ないだろう」と思い込み、名義変更を先延ばしに。結果的に、後から高額な承諾料を請求され、交渉が難航してしまいました。

代替わりは形式や理由によって手続きの流れやリスクが異なります。
この事例の他にも、以下5つのケースが典型的なトラブルの原因となります。

相続による代替わり

借地権の代替わりでもっとも多いのが相続です。

親が亡くなり、子が家と借地権を引き継ぐ場合、権利自体は相続財産として自動的に承継されます。しかし名義が変わることを地主さんに伝えないまま使い続けていると、トラブルの原因になりかねません。「無断使用」とみなされ、更新料や承諾料を遡って請求されるケースもあります。

相続だからこそ手続きは簡単と考えがちですが、地主さんとの関係を円滑に保つには、きちんと名義変更や契約条件の確認を行い、文書で残すことが重要です。

贈与による代替わり

生前に親から子へ、借地権付きの住宅を贈与するケースもあります。この場合は相続と違い、法律上は「譲渡」と見なされ、地主さんの承諾が必要です。

実際に「家族間のことだから特別な手続きは不要だと思っていた」という方が、後になって高額な承諾料や贈与税に直面する例が後を絶ちません。都心の借地では数十万円単位の承諾料が発生することもあり、事前の確認が欠かせません。

また、贈与税は年110万円を超える部分に課税されるため、税理士など専門家への相談も視野に入れると安心です。

売却による代替わり

借地権を第三者に売却する場合は、地主さんとの交渉が最も重要になります。特に、買主が個人ではなく法人だったり、土地の使い方に変更があると、地主さんが「条件を厳しくする」可能性もあります。

売買契約を進める前に、地主さんへ意向を伝え、条件を擦り合わせておくことで、あとからのトラブルを避けることができます。

離婚・財産分与による代替わり

離婚時に住宅を一方の配偶者が受け取る場合でも、借地権の名義が変わるため、地主さんとの調整が必要です。実際には「家庭内の話だから承諾は不要」と考える方もいますが、地主さんにとっては契約相手の変更にあたります。

このような事態を避けるには、法的な決定があった場合でも、地主さんにあらかじめ説明し、納得を得るプロセスが欠かせません。

法人への名義変更(事業承継)

借地上にある店舗や事務所を、個人から法人へ名義変更するケースもあります。たとえば家族経営の飲食店を法人化して後継者に渡す場合などです。ただし、法人が契約主体になることで、地主さんが「経営が不安定になるのでは」と感じ承諾を渋ることも…

法人化に際して「今後の業績に関係なく地代は維持する」と明記することで、ようやく承諾を得られたという例もあります。

代替わりで生じやすいトラブル例

借地人の代替わりは、書類を揃えて地主さんに報告するだけ―そう思っている方も多いかもしれません。しかし実際には、タイミングのずれや意思疎通の不足が引き金となって、思わぬトラブルに発展するケースが少なくありません。

以下に紹介するのは、トラブル例と、その背景にある「気づきにくい落とし穴」です。

※実際のご相談をもとに一部内容を再構成しています。

地代の値上げ要求

Bさんは、父親から借地権を贈与された後、地主さんにその旨を伝えたところ、「もう旧来の契約では対応できない。今後は地代を2倍にしてもらいたい」と告げられました。

Bさんは「家族内の贈与なのに、なぜ突然条件が変わるのか」と戸惑いましたが、地主側は「契約相手が変わった以上、地代を見直す権利がある」と主張。

代替わりは、契約の見直しや再交渉のきっかけにもなりやすい場面です。これまでの慣習や地代の据え置きに頼っていると、交渉で不利になる場合もあります。

名義変更の遅延

Cさんは、家を相続した後、借地権の名義変更を「あとでいいか」と思いそのまま放置していました。ところが、数年後に地代の支払い名義が一致していないことに地主さんが気づき、「これは無断譲渡だ」と主張されてしまいます。

Cさんは「支払いは続けていたのだから問題ないはず」と反論しましたが、地主さんは「契約上の名義人ではない人物からの支払いを受けていた覚えはない」と譲らず、話し合いは数ヶ月に及びました。

形式的に正しい手続きを怠ると、どれだけ支払いを続けていても、信頼関係の損失や契約解除リスクにつながるおそれがあります。

このようなトラブルは「少しの準備」で防げるものがほとんどです。代替わりが発生した際には、次の4点を意識するだけでも大きな違いが生まれます。

1. 地主さんとのコミュニケーションを早めに始める

名義変更や相続の手続きがまだ進んでいない段階でも、「将来的に代替わりの予定がある」と一言伝えておくだけで、地主さんの印象はまるで違ってきます。

突然「もう名義が変わっています」と報告するより、前もって相談されていた方が、地主さんも心構えができ、条件面での話し合いにも前向きになりやすいものです。

2. 契約情報・名義変更内容を整理し書面で残す

契約書や登記簿など、借地に関する資料の整理と書面化も欠かせません。どんなに家族内で同意が取れていても、書面がなければ法的には不十分です。

「名義変更の理由」「引き継ぐ人の情報」「支払いの責任をどう引き継ぐか」など、あいまいにせず明文化しておきましょう。これは、将来的に家族間の誤解や地主さんとの食い違いを避ける上でも役立ちます。

3. 承諾料や更新料の相場を事前に把握する

承諾料や更新料など、金銭面の相場を把握しておくことも重要です。条件を提示されたとき、「そんなに高いの!?」と慌てる方は少なくありません。

ですが、事前に地域の相場や過去の事例を調べておけば、相手の主張が妥当かどうかを冷静に判断できます。これらの情報をもとに交渉することで、不必要な支払いを避けられる可能性も高まります。

4. 専門家のサポートをためらわずに活用する

登記や契約に関することは司法書士、税金については税理士、交渉やトラブルには弁護士―
分野に応じた専門家に早めに相談することで、後戻りできない事態になる前にリスクを回避できます。

丁寧な段取りが、地主さんとの関係をスムーズにし自分自身の安心にもつながります。

では、こうしたリスクを理解した上で、実際の手続きはどう進めるべきでしょうか?次章では、名義変更の流れや必要書類について詳しくご紹介します。

代替わり手続きで確認すべきポイント

借地人の代替わりは「手続きが複雑そう」と感じる方が多いものです。しかし、必要な書類と流れをきちんと整理し、地主さんと誠実に話し合うことで、多くのトラブルを防ぐことができます。

次に、手続きの基本ステップをご紹介します。

地主さんに通知・承諾を取る重要性

借地人の代替わりでは、「書類を揃えればOK」と考えがちですが、実際には、地主さんとの人間関係が円滑に進んでいるかどうかが、承諾料の交渉や契約更新に大きく影響します。

地主さんはこれから長く関わる相手として、「信頼できる借地人さんかどうか」を重視します。だからこそ、形式的な手続き以上に「感じの良さ」や「誠実な対応」が評価される場面が多いのです。

ここでは、地主さんと良好な関係を築き、スムーズに代替わりを進めるために役立つ3つのコツをご紹介します。

信頼関係を構築する3つのコツ

1. 早めに連絡・相談する

手続きが完了してから連絡するより、「こういう事情で代替わりの予定があります」と事前に一言伝えるだけで、印象は大きく変わります。

地主さんも人間です。「先に話してくれてありがとう」と感じれば、その後の承諾料や条件交渉でも柔軟に対応してくれる可能性が高まります。

特に相続や贈与が予定されている場合、「まだ正式な変更ではないけれど、ご相談させてください」と前置きしたうえで連絡を入れておくと、地主側も心構えができます。早めの一報が、すべてのスタートラインです。

2. 経緯や状況を丁寧に伝える

「名義が変わります」とだけ伝えても、地主さんにとっては情報不足です。なぜ名義が変わるのか、どのような事情があって代替わりに至ったのかを、具体的かつ簡潔に説明することが大切です。

たとえば、「父が亡くなり、私が家を相続することになりました。今後は私が借地契約を継続させていただきたいと考えています」といった一言があるだけで、地主さんの安心感は格段に増します。相手にとっての「わからない不安」を解消しておくことが、関係構築の第一歩です。

3. 条件面は口約束で済ませず、必ず書面で確認する

関係が良好だからといって、「地代はそのままで」などと口頭で済ませてしまうと、後々の誤解や、記憶違いによるトラブルの原因になりかねません。

どれだけ信頼関係があっても、合意した内容は紙に残すのが基本です。合意した事項を盛り込んだ覚書を、双方で署名・押印して保管しておけば、後のリスクを大きく減らせます。

書面は信頼を壊すものではなく、むしろお互いの信頼を守るためのツールと考えるべきです。

書面は信頼を壊すものではなく、むしろお互いの信頼を守るためのツールと考えるべきです。

以上、地主さんとの関係を良好に保つためには、「誠実さ」と「準備」の両方が欠かせません。小さな気配りと確認の積み重ねが、スムーズな手続きと穏やかなやり取りにつながっていきます。

必要書類と手続きの流れ

借地人の代替わりに伴う手続きは、以下のステップで進みます。

ステップ1. 代替わりの理由を整理する

相続・贈与・売却のどれに該当するかを確認します。これにより、必要書類や税金の負担が変わります。

ステップ2.地主さんへの通知・承諾書の取得

地主さんへ「借地人が変更になること」を通知し、承諾書を交わします。

ステップ3.法務局での登記変更手続き

借地権の登記名義を新しい所有者に変更します。このとき、遺産分割協議書や贈与契約書が必要です。

ステップ4.更新契約・地代改定の確認

地主さんと改めて借地契約を締結し直す場合もあります。更新料の支払いが条件になることが多いので、事前に予算を準備しましょう。

手続きのステップを把握したら、次に気になるのは「何を準備すればいいのか?」という点ではないでしょうか。実際、借地人の代替わりでは、理由によって用意すべき書類が異なります。

相続・贈与・売却、それぞれに必要な書類を整理しておきましょう。

相続の場合:遺産分割協議書、戸籍謄本、相続関係説明図

贈与の場合:贈与契約書、印鑑証明書

売却の場合:売買契約書、登記関連書類

手続きの途中で「書類が足りなかった」「どこで取得すればいいかわからない」とつまずく方も多いですが、事前にこうした一覧を確認しておくだけで、スムーズに手続きを進めることができます。

不安な場合は、司法書士や行政書士などの専門家に相談し、書類作成や取得を代行してもらうのも一つの方法です。

このあとは、地主さんとの信頼関係をどう築いていくか、「人と人とのやりとり」に焦点を当てて見ていきましょう。

トラブルを防ぐための関係構築のコツ

名義変更の手続きをきちんと進めていれば問題ない―そう考える方も多いかもしれません。
しかし実際には、「手続き」よりも「関係性」が後のやりとりを大きく左右します。

地主さんにしてみれば、「これまで付き合いがあった借地人」が、急に見知らぬ相手に代わることになります。その変化に戸惑いや不安があるのは当然です。だからこそ、こちらからの配慮とコミュニケーションが、後の雰囲気を変えることにつながります。

説明・相談を早めに行うメリット

信頼関係の重要性については、すでに別パートで詳しくお伝えしましたが、実際に「早めの相談」をすることで得られる具体的なメリットも数多く存在します。ここでは、特に代表的な3つをご紹介します。

地代の増額リスクを抑えられる
「黙って進められるくらいなら、地代を改定しよう」と考える地主さんもいます。先に相談し「長期的にきちんと支払う意思がある」ことを示すと、増額交渉が抑えられます。

信頼が積み重なり、今後のトラブルを防げる
更新のタイミングや修繕の相談も、関係が良好だとスムーズです。長い目で見れば、手間を惜しまないことが一番の近道です。

交渉が難航したときの対応策

地主さんがどうしても条件を譲らない状況でも感情的に対立するのは避けましょう。

地主さんとの交渉に緊張してしまう方も多いですが、慌てて返答したり、感情的になると不利な条件を飲まざるを得なくなることもあるでしょう。

まずは状況を客観的に整理し、冷静に対応することが肝心です。ここでは、交渉の場面で実践できる具体的な対応ポイントを3つ紹介します。

1. 冷静に相場を調べる

地主さんから提示された条件が妥当かどうか、自分ひとりでは判断が難しいものです。そんなときは、土地家屋調査士や不動産会社などの専門家に相談して、地域や物件ごとの相場感を掴むことが重要です。

あらかじめ情報を持っておくことで、強気な条件を突きつけられても、冷静に交渉のテーブルにつくことができます。

2. 書面で条件を提示してもらう

口頭での話し合いだけでは、「そんなことは言っていない」と後から食い違うことがよくあります。重要な合意事項は必ず書面化してもらいましょう。

見積書や提案書の形で残してもらえば、後日確認や再交渉の際にもスムーズですし、トラブル予防にもつながります。

3. 第三者に立ち会ってもらう

地主さんとの関係が気まずい、交渉が行き詰まっている、という場合は、専門家の同席を検討しましょう。司法書士や弁護士、不動産の専門家が間に入ることで、感情的なぶつかり合いを避け、建設的な対話がしやすくなります。

相手も「この人はきちんと準備している」と感じ、対応が丁寧になるケースも多くあります。

無理に一人で解決しようとせず、冷静な対話と準備があれば、多くの交渉は穏やかに収まります。「納得できる着地点は必ずある」と信じて、落ち着いて向き合うことが何より大切です。

新しい借地人さんとしての責任と注意点

代替わりの手続きを終えれば安心…と思いがちですが、ここからが本当のスタートです。新しい借地人さんになった瞬間から、契約上の義務と責任をきちんと引き継ぐ必要があります。

このセクションでは、代替わり後に注意したい契約条件や、将来のトラブルを防ぐためのポイントを解説します。

地代や契約条件の引き継ぎ

借地人さんが代わっても、基本的にこれまでの契約条件はそのまま引き継ぎます。つまり、これまで支払っていた地代、更新料、契約の有効期限も自動的に続くと考えましょう。

これは借地借家法によって借地人さんが保護されているためで、「代替わり=契約の打ち切り」には基本的になりません。

とはいえ、すべてがスムーズに進むとは限りません。代替わりのタイミングを機に、地主側から契約条件の見直しや地代の増額を打診されることもあるため、注意しましょう。

たとえば、「先代のときは長年地代が据え置きだった」というケースでは、新しい借地人さんとの関係性がまだできていないことを理由に、地主さんが「相場に合わせて改定したい」と申し入れてくる場合があります。

こうした申し出があったときは、

周辺の地代相場

借地借家法の規定(契約内容を一方的に変更できるか)

などの客観的な基準をもとに冷静に判断・交渉することが大切です

特に先代との関係が長かった場合や、契約書が古く内容が曖昧な場合などには、思わぬ誤解や主張の食い違いが起こることもあります。

そうしたトラブルの芽を事前に摘むために、意識しておきたい行動や備えを以下にまとめました。

トラブルを防ぐために意識したいこと

1.過去の契約書を確認し、支払条件や更新条項を整理しておく
「この契約は自動更新か?」「更新料は発生するか?」など、基本条件をあらためて把握しておくことで、不当な主張に備えやすくなります。

2.地代の支払履歴や更新通知の記録を残しておく
先代がどのように支払っていたか、増額交渉があったかなどの履歴は、地主さんとのやりとりの参考になるだけでなく、交渉材料にもなります。

3.条件変更を求められても即答せず、一度持ち帰る
「今ここで決めてください」と言われても、感情的に答えず、専門家に確認したうえで冷静に対応することが、長い信頼関係の維持につながります。

こうした備えは「念のため」と思えるうちは面倒に感じるかもしれませんが、いざというときに自分を守る盾になります。手続きの前後を含め、丁寧な管理と慎重な対話を心がけましょう。

期限・更新の確認事項

「契約更新のタイミングはまだ先だろう」と油断していると、いつの間にか期限が迫っていた、ということもあります。

借地契約には存続期間が定められています。

◆旧借地法(平成4年以前の契約)の場合

初回:30年
更新:20年(以後も更新20年ずつ)

◆借地借家法(平成4年以降の契約)の場合

原則:30年(更新は自動的に20年)

契約の引き継ぎを円滑に行うためには、まずは「今の契約がどうなっているのか」を正確に把握することが第一歩です。

古い契約書では、どの法律に基づいているのかがあいまいだったり、更新の時期や更新料の取り決めが不明確なケースも少なくありません。

以下のような項目については、手続きを進める前に必ず確認しておくべき基本情報です。

・契約がどの法律に基づいているか

・次の更新時期

・更新料の有無

書面化と公正証書の活用

借地契約や更新条件は、できるだけ書面化して残すことが重要です。特に代替わりのタイミングでは、地主さんと交わす合意事項が増えるため、「後から言った言わない」で揉めやすくなります。

ある借地人さんは、口頭で「更新料は不要」と聞いていたため支払わずにいたところ、数年後に地主さんが「やはり支払ってもらわないと困る」と主張。証拠がなく交渉が難航し、結果的に過去の分をまとめて支払うことになりました。

このように、名義変更や代替わりの場面では、書類の準備や手続きに気を取られがちですが、
実は「言った・言わない」のトラブルこそが最も起こりやすく、あとを引くリスクも高いのです。

だからこそ、合意内容は言葉だけでなく「書面に残す」ことが何より大切になります。

◆トラブル防止のポイント

合意した内容は必ず書面に残す

可能であれば公正証書にしておく

署名捺印のある書面を双方保管する

大切な合意ほど、「紙に残す」というひと手間があとあと大きな安心につながります。さらに信頼性を高めたい場合は、公正証書の活用も検討してみましょう。

◆公正証書のメリット

内容が法的に証明されやすい

公証役場に保管されるため紛失リスクが少ない

将来的な紛争の際に証拠力が高い

借地トラブル予防の行動リスト

「いざというとき慌てないように、何を準備しておけばいいのか?」-借地人の代替わりを経験した多くの方が、口をそろえて「もっと早く行動すればよかった」と振り返ります。

ここでは、トラブルを未然に防ぐために実践しておきたい行動リストと、困ったときの相談先を整理しました。

チェックリスト

以下は、代替わりをスムーズに進めるための「確認リスト」です。一つずつチェックしながら進めると、抜け漏れを防げます。

1.契約書と重要書類を整理する

・現在の借地契約書

・過去の更新履歴

・地代の支払い履歴

・登記簿謄本(借地権付建物)

これらは地主さんとの話し合いの際、必ず必要になります。古い書類でも保管しておきましょう。

2.地主さんへ早めに通知・相談する

・名義が変わる理由(相続・贈与・売却)

・いつから新しい借地人さんになるのか

・契約条件を引き継ぐ意思があること

・口頭で済まさず、可能であれば文書を添える

地主さんにとって、借地人さんが誰かは「契約そのもの」に関わる重要な情報です。早い段階で誠実な連絡を入れることが、信頼の第一歩につながります。一報を入れるかどうかで、のちの交渉の難易度が大きく変わることもあります。

3.合意内容を書面で残す

・条件を口頭だけで済ませない

・公正証書化を検討

・署名・捺印済みの書類を双方保管

「言った・言わない」のトラブルは、書類さえあれば一瞬で解決できます。どれほど信頼できる相手でも、将来の安心のために記録に残す習慣をつけておくことが重要です。

4.次の更新時期をカレンダーに記入

・契約の有効期限

・更新料の支払いタイミング

・地代改定の予定

契約の「次の節目」がいつなのかを把握しておくことは、借地人さんにとってのリスク管理でもあります。特に代替わりの直後は見落としが起きがちです。小さなミスが大きな不信につながる前に、カレンダーに記録しておくことで安心感が違ってきます。

相談先と専門家の選び方

信頼できる専門家に早めに相談することは、代替わり手続きのトラブルを未然に防ぐうえで非常に有効です。「このケースは誰に相談すべきか」「手続きのどこをお願いできるのか」など、
悩んだまま先延ばしにすると、かえってリスクが高まることもあります。

ここでは、借地人の代替わりに関して相談できる主な専門家と、その役割・得意分野をわかりやすく整理します。

司法書士

借地権の名義変更登記や、地主さんとの契約関係を法的に整理するプロフェッショナルです。書類の作成だけでなく、「このケースはどの契約条項に当てはまるか」「借地借家法上どんな対応が必要か」などのアドバイスも得意です。相続や贈与の場面では、「登記の出口」を安全に作ってくれる存在とも言えます。

税理士

相続や贈与に伴う税務相談は、税理士の専門領域です。借地権の評価額や、承諾料にかかる税金(雑所得/贈与税)などの試算をしてもらえます。

また、「地主さんに支払う承諾料を経費にできるか?」といった実務的な税務判断の相談にも対応してくれます。

弁護士

地主さんとの交渉がうまくいかない、契約条件で揉めているといった場合は、法的な代理交渉が可能な弁護士が頼りになります。

トラブルの兆しが見えた段階で相談しておけば、感情的なやりとりになる前に「守りの体制」を整えられるのも大きなメリットです。契約解除や地代未払い問題など、複雑な争いごとの回避にも役立ちます。

底地・借地専門の不動産会社

専門の不動産会社は、地域の地代相場や過去の承諾料実例などリアルな数字を教えてくれる情報源になります。売却や買い取りの仲介にも対応しており、地主さんから「借地権を買い取ってほしい」と言われたときの判断材料にもなります。また、物件の将来活用について相談したい場合にも有効です。

専門家選びのコツは?

どんな専門家に相談するかで、結果は大きく変わります。以下の視点を押さえると、無駄なくスムーズに依頼先を見つけられます。

借地権に詳しい人を選ぶ
相続や登記の専門家でも、借地権の扱いに慣れていない人もいます。事前に「借地権の実務経験があるか」を確認すると安心です。

初回相談で費用感を聞いておく
報酬の形は「定額」「成功報酬」「時間制」など様々。トラブルにならないよう、初回の段階で費用感をざっくり聞いておきましょう。

過去にどんな案件を扱ったかを聞いてみる
「地主さんと更新料でもめたケースは扱ったことがありますか?」など、実例を聞くことで信頼度や得意分野が見えてきます。

もし迷ったら、市役所や区役所の相談窓口にも、無料の法律相談が用意されている場合があります。「まず何から始めるか知りたい」という段階なら、一度行政の窓口で相談してみるのも良いでしょう。

「借地人代替わり」についてよくある質問(FAQ)

ここでは、借地人さんの代替わりを検討する方から寄せられるご質問の中でも、とくに多いものをまとめました。具体的な状況によって対応が変わる場合もありますので、気になる点は弊社のような専門家へ相談してみてください。

Q1:名義変更しないまま地代を払い続けるとどうなりますか?

【回答】名義変更をせずにそのまま地代を支払い続けていると、いくつかのリスクがあります。まず、法律上は「借地権を無断で譲渡した」とみなされる可能性があります。

借地借家法では相続の場合は承諾が不要とされるケースもありますが、地主側が「通知もなく勝手に名義が変わっている」と判断し、最悪の場合は契約解除を主張されることもあります。厳密には承諾が不要とはいえ、大家さんへの通知は必要です。亡くなった人(被相続人)が所有していた建物の名義を、相続人へ正式に移す、相続登記も忘れずに。

また、地代を払い続けていても、正式な借地人さんとして認められるとは限りません。承諾料や更新料の請求が後から一括で行われる場合もあるので、名義が変わったら速やかに地主さんに通知し、必要な手続きを進めることが重要です。

Q2:承諾料は支払うべきですか?

【回答】相続の場合、承諾料は不要です。
承諾料は法律で明確に金額が決まっているものではなく、地主さんとの合意に基づいて決まる「任意の費用」です。

「親族内での相続」「代替わり後も契約条件を変えない」などの場合、 承諾料は不要ですが、今後の関係を考え通知は必要です。

Q3:借地権を相続放棄したい場合はどうすればいいですか?

【回答】相続放棄をする場合は、他の財産と一括して「すべての相続を放棄する」必要があります。

借地権だけを選んで放棄することはできません。相続放棄は被相続人が亡くなったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所で手続きを行います。

注意点として、相続放棄をすると、借地権だけでなく預貯金や他の資産も一切引き継げなくなるため、放棄するかどうかは慎重に判断が必要です。

また、相続人全員が放棄すると次順位の相続人に権利が移りますので、家族で十分話し合いをしておくことが大切です。

まとめ|代替わりを円滑に進めるために大切なこと

借地人の代替わりは、単なる名義変更にとどまらず、将来にわたる地主さんとの信頼関係を築く大切な機会です。ここまで解説してきたポイントを、もう一度振り返りましょう。

1. 早めの準備が鍵

相続や贈与は突然やってきます。「まだ先の話」と思わず、契約書や権利関係を整理しておきましょう。

2. 地主さんとの誠実な対話

手続きの大半は「人と人のやりとり」です。事情をきちんと説明し、疑問をそのままにしないことで、信頼関係が築かれます。

3. 書面で条件を確認・保管

「言った・言わない」ではなく、すべての条件を証拠として残す習慣を持ちましょう。

4. 専門家の力を借りる

税理士・司法書士・弁護士など、各分野のプロに相談することで、負担もリスクも大幅に減らせます。

借地権の代替わりは、不安や面倒に思えるかもしれません。しかし、一つずつ確認しながら進めれば、必ず整理できます。「まだ何も手をつけていない」という方は、まずは地主さんへの連絡や契約書の確認から始めてみてください。

本記事が、借地人代替わりを円滑に進め、安心して暮らしを守る一助になれば幸いです。

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