やっておきたい家族信託(民事信託)~財産を守ってもらうための対策~

今から数十年後、日本人の平均寿命は100歳を超えるのではないかと言われています。
大切な人の命が長く続くのは嬉しいことですが、そのことで今までは気づかなかった問題点が浮き彫りになってきました。
それは一人で生活できなくなってから、亡くなるまでの期間が長いことです。
亡くなるまでの数年から数十年間は、誰かが本人に代わり財産を管理しなければなりません。入院費や高齢者施設への支払い、銀行口座から日常に必要なお金を降ろすことも難しくなります。

特殊な場合を除けば、その財産管理の適任者は、ご本人をよく知る家族でしょう。
しかし、「判断能力がない」とみなされてからでは、家族が成年後見人となれないことがあるのです。
そういった心配を回避するために、健在のうちにご本人が後見人を指名できる制度あります。それが任意後見です。また任意後見より簡単にできる家族信託(民事信託)という手段も有効です。併用すれば、よりご自身にとって有利に制度を使うことができます。
これらの対策を取ることで、認知症で判断能力のない高齢者が詐欺に遭うのを未然に防いだり、契約を取消せたりする可能性があるので、心配な方はぜひ知っておいてほしい制度です。
今回はご高齢の方がお持ちの財産をご家族に守ってもらうためにぜひ活用したい家族信託(民事信託)についてお伝えします。

老夫婦

健康寿命と平均寿命

認知症の発症は70代から急速に増加します。歩いたり、食べたりといった基本的な動作が一人で滞りなくできるのもこの年代までのことが多いようです。それ以降、少しずつ周りの手助けが必要になってきます。
高齢化問題を考えるとき、平均寿命を指標にすることが多いのですが、注目してもらいたいのは健康寿命です。
健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく過ごせる期間のことです。

2016年の健康寿命は、男性72.14歳、女性74.79歳でした(厚生労働省調べ)。平均寿命との差は男性8.84年、女性12.35年。この期間は誰かの手助けが必要というであるということです。またこの年数は平均値なので、人によっては数十年続くことも考えられます。特に認知症の場合は体が健康であることも多く、介護年数が長くなりがちです。

成年後見制度とは?

もともと旧法に禁治産制度が存在しました。しかし、戸籍への記載など差別的な意味合いがあったことから廃止、2000年に成年後見制度が施行されました。
判断能力がないとみなされて以降の生活を、ご本人の意思を尊重しつつサポートするために成年後見制度があります。成年後見人には財産管理と身上監護が任されています。

「法定後見」と「任意後見」の2種類ある

成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2種類あります。どちらも判断能力の低下後に開始されることは同じです。
しかし、本人が認知症等で判断能力がないとみなされてからだと「法定後見」しか選択できません。

法定後見

法定後見は、通常は家族が家庭裁判所に申し立てをし、家庭裁判所が後見人を選任します。家庭裁判所による判断なので、親族ではなく、他人である士業者がなることも多くあり報酬を支払わなければなりません。親族が選任された場合でも士業者が後見監督人として付くことがほとんどです。後見監督人への支払いも発生します。

任意後見

任意後見は、「認知症などで正常な判断能力がない」とみなされる前に本人が後見人を決めておくものです。それは親族でも知人でも良く、ご自身が信頼できると思う人に任せることができます。何を任せるかということについても、法律の趣旨に反しない限りはご本人の自由です。

任意後見のための手続き

任意後見人を指名するためには、公証役場での公正証書作成が必須です。とはいえ、遺言のような証人もいらず、一旦作成してしまえば安心です。
本人が認知症や病気で判断能力がない状態になったら、家族が家庭裁判所に申し立てを行います。すると、任意後見監督人が選任された上で、公正証書で契約した人が任意後見人になります。監督人がつくことで、任意後見契約が効力を持つのです。
任意後見監督人は、任意後見人が契約通りの仕事をしているかチェックする役割を担います。監督人への報酬は発生しますが、後見人を士業者に依頼する場合の半額ほどで済むことが多いようです。

参考リンク
任意後見契約 / 日本公証人連合会

成年後見制度の利用動機は?

家族が法定後見の申立てをするケースとして考えられるのは、「判断能力がない」とみなされた方が相続人の一人である場合。その署名が法的に認められず「成年後見人をたてれば手続きができる」と言われ、申立てにつながります。また高齢者施設への入所の際に求められることもあります。他には悪意のある親族から財産をだまし取られそうな場合も他の親族からの申立てで制度が利用されています。

赤の他人が成年後見人になる可能性がある

信頼できる家族が成年後見人として認められれば良いのですが、これまでは家庭裁判所により選出される成年後見人は、赤の他人である士業者の場合が多かったのです。
士業者が成年後見人になると、総資産額によって月2〜6万円という多額の報酬の支払いが発生します。家族がなれば発生しない費用です。また、一部不正を働く者が問題になるなど、是非が問われていました。

そんな中、最高裁判所が2019年3月18日、成年後見人について「親族がなるのがふさわしい」との見解を示し、親族が成年後見人として認められる可能性が高くなってきています。詳しくは以下コラムをご覧ください。

制度利用が推進される「成年後見制度」/【円満な相続を目指そう】相続開始前に知っておくべきことは?

健在なうちに任意後見契約を結ぼう

親子

必要に迫られてから成年後見制度を利用しようと思うと、成年後見人の選定を家庭裁判所にゆだねる法定後見しか選べません。
余計な費用が発生したり、生活費の支払いにも許可が必要だったりと、世話をしてくれる家族にとっても煩わしいものです。ご本人も知らない人に自分の財産を預けるより、ご自身が信頼できると思う人を指名しておいた方が安心でしょう。
ご自身と財産を守るために、任意後見契約を締結することをおすすめします。

認知症の親が高額契約した場合も取消せる可能性が。成年後見人が持つ代理権・取消権

成年後見制度は家族にとって、融通が利かない、利用しにくい制度だとの批判もありますが、法律で規定されているからこそ効力を発揮するのが、代理権、取消権です。

特に取消権は、高齢者が詐欺や高額契約結んできてしまったときに行使できる可能性があるので知っておくべき事項です。

取消権

被後見人が行った法律行為が本人にとって不利益だと判断すれば、成年後見人が取り消すことができます。ただし、日用品の購入、その他日常生活に関する行為については 認められません。
例えば、「アンパンを50個スーパーで買ってきてしまい、とても食べきれないのでその売買を取り消したい」というのは認められませんが、「賃貸アパート経営の契約書にサインしてしまった」「詐欺に引っかかり、高額の布団を購入してしまった」というものなら取り消せる可能性があるということです。

代理権

代理人が本人の代わりに法律関係処理を行う場合に必要な委任状ですが、後見人には必要ありません。ただし、財産に関するものに限定され、婚姻や離婚、遺言作成などは後見人では手続きできません。

成年後見制度のデメリット

一度決めたら取消せない

ご本人の財産を守る役割のある成年後見人ですが、家庭裁判所に制度利用を相談に行くと、その場で利用するかしないかの決断を迫られます。
そして利用を決めたら、取りやめることはできず、その方が亡くなるまで効力を発揮します。
ご家族以外が成年後見人となると、家族が被成年後見人(ご本人)の生活費を銀行口座から降ろすのにも、財産を管理する成年後見人にお伺いを立てなければならず、手間がかかります。「被成年後見人のためにはならないのでは?」と家族が思う場面も出てくるかもしれません。
成年後見人が被成年後見人の財産を横領したり、罪を犯したりすれば解任の申立てができますが、よほどのことがない限りは認められず、証明するのに時間もかかります。解任できても、また別の成年後見人が選任されます。

亡くなるまでずっと費用が発生する

成年後見制度を利用すると、ほとんどの場合、士業者への支払いが発生します。仕事をしてもらう以上仕方のないことですが、成年後見人なら月に2~6万円、後見監督人ならその半額程度。それが亡くなるまでずっと続くのです。

相続税対策ができない

生前贈与や資産運用、土地活用などの相続税対策ができなくなってしまいます。親族が後見人となった場合でも、成年後見人の職務は「ご本人の財産を守ること」なので、相続人となりうる人にだけに利益のあることや、リスクのある運用はできません。

そこで利用したいのが、家族信託です。

家族信託(民事信託)とは?

信託とは、財産の権利を他人に移し、一定の目的に従ってその管理・処分を任せることです。
財産を家族に任せれば「家族信託」、士業者などに任せれば「民事信託」と言います。

家族信託は、委託者(管理を依頼する人)と受託者(依頼された人)との間の契約なので、当事者間で自由に内容を決めることができます。法律に反しない限りは、それぞれの状況に即して決めることができるのです。

成年後見制度は、「判断能力がない」とみなされてから開始されますが、家族信託は、契約を交わしたその日から財産を任せることもできるのです。

家族信託と任意後見の併用を

私たちがおすすめしたいのは、家族信託と任意後見、両方の契約を結んでおくことです。
家族信託なら、積極的な財産の運用や土地活用をしてもらうことができます。「寝たきりになったけれど、まだ頭はハッキリしている」状態なら、ご自身の指示の下、積極的な運用を進めてもらうこともできます。
お亡くなりになるまで意識がクリアな方も多いですから、家族信託だけの利用で済むこともあるでしょう。判断能力がない状態でも家族が困ることがなければ、任意後見を開始しなくてもでも構いません。

しかし、65歳以上の方の約10人に1人は認知症である、というデータもあります。認知症はいつ、どういう形でなるかはわからないので、備えておくのが賢明です。

家族信託だけだと身上監護ができない

家族信託だけ結んだ場合の問題点は、「身上監護」ができないことです。生活や治療、介護に関する法律行為を行うことができないので、ご本人の署名が必要な場合に困ります。
そういったときに両方の契約を結んでいれば、家族信託を継続したまま、任意後見契約を開始できるのです。
「体は元気で歩き回れるが認知症」だと高額な契約をしてきてしまう危険性があります。任意後見契約がされており、開始の手続きをしていれば、そのような取引を取消せる可能性があることは非常に重要です。

公正証書にしておこう

弁護士

家族信託は必ず公正証書しなければならないわけではありませんが、任意後見契約は公正証書にしなければならないので、抜け、漏れがないように一緒に作成し、両方とも公正証書にしておくのが確実かもしれません。
内容についてご不安なら、弁護士や司法書士が相談に乗ってくれます。また公証役場でも内容の確認をしてくれますので、相談しながら少しずつ作成していただければと思います。

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