【税理士監修】相続税の税務調査、実際に何を調べられる?地主さんが特に注意すべきポイントを解説

相続税の申告を済ませて、ひと安心。そう思っていたのに、税務署から地主さんの自宅に「相続税の件で一度お話を伺いたい」と電話が入ることがあります。

税務調査と聞くと、脱税を疑われた人にだけ来るもの、という印象があるかもしれません。けれど実際は、地代収入のある地主さんや、複数の土地を持つ資産家ほど調査の対象になる傾向にあります。

そこで本記事では、税務調査で地主さんがよく調べられる項目、税務調査当日の流れ、追徴課税を避ける方法などを解説します。

相続税の税務調査の実態

国税庁が2025年12月に公表した「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」によると、相続税の実地調査は次のような結果でした。

項目令和6事務年度の数字
実地調査の件数9,512件(前年比111.2%)
申告漏れなどが見つかった割合82.3%
追徴税額の合計824億円
1件あたりの追徴税額867万円
無申告だった事案の追徴税額142億円(平成21事務年度以降で最高)

参照:国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」

特に注目したいのは、調査が入った事案の82.3%で申告漏れなどの指摘があったことです。調査件数そのものも前年から約1,000件増えて9,512件となり、増加傾向が続いています。

無申告だった事案の追徴税額は142億円で、国税庁が公表を始めた平成21事務年度以降で最も高い数字になりました。申告が必要なのに申告していない人への税務調査に、税務署が力を入れていることが伺えます。

遺産の規模が大きい方ほど調査の対象になりやすい

遺産の規模が大きい方ほど、調査の対象になる可能性が高まります。遺産が1億円未満の方のうち税務調査が入る割合は3%未満ですが、5億円を超えると各段に跳ね上がります。地代収入があり、複数の土地を持つ地主さんや資産家の方は、税務調査の対象になりやすいと言えるでしょう。

税務署から連絡が来る時期の目安

税務署から連絡が来る時期にも特徴があります。税務署の人事異動は7月で、その直後の8月から11月にかけて調査を開始するのが一般的です。税務署からの連絡は、申告した年の翌年から2年後の秋頃に来ると考えておくと良いでしょう。

税務署は確定申告の前から情報を集めている|情報収集の方法を紹介

税務調査と聞くと、確定申告で提出した書類を税務署の職員が確認し、「おかしい」と感じてから調査が始まるイメージがあるかもしれません。しかし実際は、申告書が提出される前から、税務署はその家の財産の情報を集めています。

税務署がよく用いる情報源は、次のようなものです。

  • 不動産の登記情報・固定資産税台帳:誰がどの土地・建物を持っているかを把握する。
  • KSKシステム(国税総合管理システム):過去の申告内容や収入の情報を一元的に管理している。
  • 法定調書:60種類以上の書類が、税務署に自動的に集まる仕組みになっている。地代や不動産の売買、保険金の受け取りなどの情報も法定調書に含まれる。
  • 相続人全員の銀行口座:税務署は金融機関に照会する権限を持っている。

地代収入や不動産の売買のように、お金が動いた記録は、本人が黙っていても税務署側に届いています。「申告していないから分からないだろう」と思っても税務調査が来るのは、確定申告の前から情報を集める仕組みが存在するからです。

調査の連絡が来る時点で、税務署はすでにある程度の見当をつけて候補を絞っている、と考えておくのが現実的と言えるでしょう。

地主さんが相続税の税務調査で指摘を受けやすいポイント

地主さんは相続財産の構成が一般の家庭と違うケースが多く、指摘されやすい箇所も通常の相続とは異なる傾向にあります。ここでは、地主さんだからこそ相続税の税務調査で指摘を受けやすいポイントを3つ紹介します。

地代収入の申告漏れ・過少申告

土地を貸して地代を受け取っている場合、その地代は不動産所得として、毎年の確定申告で所得税の申告が必要です。所得税の申告が正しくできていないと、相続税の調査の際に申告漏れを指摘されるきっかけになります。

税務署は、生前の所得から「これくらいは貯まっているはず」と、地主さんの資産を見積もることが可能です。もし税務署での見積もりと、申告された相続財産が合わないときは、「申告されていない財産があるのでは」と判断され、深掘りのきっかけになり得ます。

地代という安定収入があるにも関わらず、それに見合う預貯金が申告されていないというズレは、税務署の目につきやすいのです。

特に、地代を現金で受け取っているときや、複数の借地人からまとめて地代を受け取っているときは、記録が曖昧になりやすいため注意が必要です。通帳に履歴が残らないぶん、いくら受け取っていたかを後から説明しにくくなります。

借地権評価の誤り

地主さんが持つ底地の相続税評価は、計算を誤りやすいポイントのひとつです。基本的な底地の相続税評価の計算式は、次のとおりです。

  • 底地の評価額 = 自用地としての評価額 ×(1 − 借地権割合)

借地権割合は、国税庁の路線価図に記されたアルファベットで決まります。都心の一等地ではAの90%という地域もあり、その場合、底地の評価が極めて低くなるケースも散見されます。

アルファベットごとの借地権割合と、大まかな地域のイメージは次のとおりです。

記号借地権割合大まかな地域イメージ
A90%都心の一等地・繁華街
B~C80〜70%都市部の商業地
D~E60〜50%住宅地で多い水準
F~G40〜30%郊外・地方

出典:国税庁「No.4611 借地権の評価」ほか。地域イメージは一般的な傾向です。

ただし、借地の相続税評価額を算出するときは、借地権割合だけでなく、権利金を受け取っているかどうか、地代が「通常の地代」なのか「相当の地代」なのかによって、評価の方法そのものが変わります。

条件の組み合わせによって計算方法が異なるため、慣れていないと評価額を誤認する可能性があります。さらに、一般定期借地権が設定されている土地は、計算が一段と複雑になります。複利年金現価率や底地割合を使った評価が必要で、専門家でも間違えることがある領域です。

底地の評価は、式に当てはめれば算出できるわけではありません。物件ごとの賃貸借契約の内容や契約の履行・地代収入の状況をふまえて算出することが大切です。

子・孫の名義で預金や株への投資をしている

地主さんのなかには、子・孫の名義で預金や株への投資をしている方が大勢います。地代収入で手元の資金に余裕があるため、子や孫の名義で口座を作り、将来のために贈与している方もいるでしょう。

しかし、贈与契約書がなく、口座を名義人本人ではなく親や祖父母が管理していると、その預金は名義人のものではなく、亡くなった方の財産(名義預金)と判断されることがあります。名義が子や孫でも、実質的に被相続人のお金として扱われてしまうのです。

税務調査では、次のようなやり取りがよく行われています。

調査官:お子さん名義の口座にあるお金は、どこから入ったものですか?

地主さん:毎年、私が贈与していたものです。

調査官:では、贈与税の申告はされていますか?

地主さん:いえ、していません。

調査官:それでは、名義預金として相続財産に含めて計算します。

名義預金とは、口座の名義人と、実際にそのお金を管理している人が異なる貯金のことです。名義預金と判断されないためには、おおむね次の3つが揃っている必要があります。

  • 贈与があったことの証拠(贈与契約書など)が残っている
  • 受け取った本人が、その通帳と印鑑を管理している
  • 受け取った本人が、そのお金を自由に出し入れできる状態である

「贈与したつもり」と「贈与が成立している」は別物です。税務調査では、お金を移すだけでなく、受け取った側が自分の財産として扱っていることを証明する必要があります。

地主さんの相続発生前にできる税務調査の対策方法

税務調査による追徴課税は、相続が発生する前から対策できます。早めに準備を進めておくと、税務調査の連絡が来ても慌てずに対応することが可能です。

地主さんが相続発生前にできる税務調査の対策方法としては、次のようなものが挙げられます。

  • 地代は通帳で受け取って記録を残し、現金での受け取りはやめる
  • 借地の契約書が古かったり見当たらなかったりする場合は、早めに確認する
  • 借地の契約書は必要に応じて作り直すことも検討する
  • 贈与をする場合は贈与契約書を毎年作成し、振込で記録が残る形にする
  • 底地・借地の実務に慣れた、相続税に強い税理士に確定申告を依頼する
  • 相続が起きる前に専門家へ相談し、評価額や納税額をあらかじめ試算しておく

特に底地の評価額は、条件によって計算方法が変わります。評価額の誤りによって追徴課税が発生しないよう、現状で問題点がないかの確認も含め、手続きに慣れた専門家に早めに相談しましょう。

【まとめ】相続発生前の対応次第で追徴課税を避けられる

地主さんの財産は、地代収入・借地権の評価・名義預金など、一般的な家庭ではあまり見られない項目も含まれており、複雑になっているケースがよく見られます。税務調査の連絡が来てから慌てて準備をするのでは対策が間に合わず、追加徴税を受けることもあるでしょう。

税務署は確定申告の前から情報を集めており、実際に税務調査を受けた人のうち、約8割の人が何らかの是正を受けています。早めに専門家に相談し、地代の記録・借地契約書・贈与の証拠を揃え、相続税の税務調査に備えましょう。

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