相続マニュアル 相続が発生したら何から始めればいいのか?
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大切な家族の死。いつかは皆に訪れるものとはいえ、直後は喪失感と寂しさに襲われるものです。しかし、悲しんでもいられません。やらなければならない手続きが山積みです。
亡くなってからの1週間は、死亡届の提出や葬儀の手配で悲しみを忘れるほどの忙しさです。そのあとも相続手続き、家や財産の処分、銀行や不動産の名義変更とやり残しなく処理するのには大変な労力を要します。
また、人生にそう何度でも起こることではないので、そういった手配をするのが初めての方が多く、余計に時間がかかります。
少し落ち着くと、ふとした時に襲われる喪失感に、いつもなら当然のようにできることができなくなってしまう方も多いのです。
今回は、いざというときにスムーズに相続をするために、必要な手続きについてお話します。
目次
時間との勝負!相続手続きはスケジューリングが大切
相続手続きは10ヵ月以内に完了しなくてはなりません。それだけの時間があれば無理なく終えられそうにも思いますが、実際にやってみると思いのほかスムーズに進まないものです。相続人は仕事や家庭での日常生活を営みつつ、相続にも時間を取られるからです。役所での手続きのために平日昼間に仕事を休まねばならないこともあります。
そのうえ、親族と言っても他人です。「どこの銀行にいくら預貯金があるのか」「不動産関連の書類はどこにあるのか」「知らせた方がいい親戚や友人の連絡先はどこか」など、手探り状態で探さなければならないことばかりあります。
ここでは、相続が発生したらやらなければならない公的な手続き、民間での手続きを見ていきます。特に公的な手続きは期限が定まっているので、それを過ぎないようにスケジュールをしっかり立て、やり残しがないように注意してください。
「3ヵ月」と「10か月」を目指して手続きを進める
公的な手続きのゴールは10ヵ月後の相続税の支払いです。それまでにある1週間以内の死亡届の提出、3か月以内の相続人・相続財産の確定も大きなポイントです。
亡くなったらすぐに行うこと
ご家族が亡くなったら、死亡届を市区町村役場に提出します。死亡の事実を知った日から7日以内が期限です。届出は親族のほか、同居人、家主、後見人などが行うこともできます。
病院で亡くなった場合は医師が発行する死亡診断書と死亡届が対になっているので、新たに用意する必要はありません。
どこで葬儀を行うか決めたら、遺体の引き取りや搬送をします。葬儀の段取りを決めることはもちろん、亡くなったことを親戚や知人に伝えます。また火葬までに許可が必要です。死亡届と一緒に火葬許可申請書を提出し、火葬許可証を受け取ります。
3ヵ月以内に行うこと
葬儀が終わったら相続をするための準備に入ります。遺言があればその内容が優先されるので、有無を確認します。遺言の内容によって、遺産を取得する人の範囲が変わる可能性があります。相続手続き完了後に遺言が見つかると、すべての作業をやり直さねばならなくなるので、気をつけましょう。遺言があっても相続人全員が同意すれば、遺産分割の内容を相続人が決めなおすことができます。
遺言がない場合
遺言がない場合の相続手続きは、相続人全員の同意の元に行います。1人でも反対する者がいれば分割はできません。
遺言がある場合
その遺言がどのような形式かによって、その後の手続きが変わります。遺言を隠ぺい・改ざん・破棄すると、相続欠格とみなされ相続権が失われますので、見つけたら直ちに法に則った手続きを行います。
1.自筆証書遺言の場合
自筆で書かれた遺言が自宅や貸金庫の中にあった場合、家庭裁判所で検認を受けなければなりません。検認手続きには1ヵ月以上かかり、それが済むまでは相続手続きができないので、早い段階で検認を受けましょう。検認調書が発行されると相続手続きに進めます。
2.公正証書遺言の場合
公正証書遺言は検認の必要がありません。そのまま相続手続きが開始できます。公正証書遺言が存在するかどうかわからければ、公証役場の「遺言検索システム」で調べてもらうことができます。
相続放棄・限定承認の申し出
借金やローンなどマイナスの遺産が多ければ相続放棄や限定承認ができますが、3ヵ月以内の申し出が必要です。
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賢い遺言の遺し方~その意味と作成手順~
4ヵ月以内に行うこと
被相続人の準確定申告
被相続人の財産が確定したら、亡くなった年の1月1日から死亡した日までの所得額を計算し、申告します。これは準確定申告といい、相続人が行います。相続の開始を知った日の翌日から4ヵ月以内に申告と納税をしなければなりません。相続人が複数いる場合は相続人全員の連署により提出します。準確定申告が必要かどうかは以下のリンクよりご確認ください。基本的には確定申告と同じ要件ですが、亡くなった日までの収入・所得で計算します。
生前の高額医療費の請求は死後でもできます。その場合は準確定申告をし、還付を受けてください。
参考リンク
確定申告が必要な方/国税庁
10か月以内に行うこと
相続人となる人と財産の把握ができたら、いよいよ遺産分割を行います。遺言があれば相続人全員で内容を確認し、記載のない財産がないかチェックします。通常は遺言通りに遺産分割しますが、相続人全員が了承すれば、分配を決めなおすことができます。
遺言がなければ相続人同士で協議し、皆が納得する配分を取り決めます。民法には法定相続分の定めがありますが、これにこだわる必要はありません。
また遺産分割協議は相続人同志で話し合うことを指します。方法は全員の合意が得られるのであればメールや電話でも良いのです。
全員の合意が取れたら、相続税の計算をし、申告・納付します。
注意してほしいのは、遺産分割協議がまとまらなくても、この期限までに相続税は支払わなければならないこと。遅れると延滞税の支払いが課されます。分割協議が終わっていない場合は、法定相続分に従って取得したものとして計算し、相続人の財産から先に相続税を支払います。遺産分割の確定後に過不足分は修正申告します。
相続登記を忘れずに
不動産を相続することになったら相続登記をします。相続登記自体には期限ないのですが、売却は登記名義人でないとできません。
よくあるのは、祖父の名前で登記されたまま、父が相続登記せずに亡くなったケース。子が相続登記するには、まず亡くなった父に祖父から登記を移し、父から子へ相続登記しなければなりません。また家族の中では暗黙の了解で父の所有物であったとしても、父に兄弟がいた場合、相続人該当者が複数になります。手続きには全ての人の承認が必要で、非常に苦労します。
届出チェックリスト
被相続人の状況によりますが、多くの人が該当する手続きをまとめました。返還しなければならない証明書類もあるので注意しましょう。
民間企業での手続き
公的な手続きはもちろんのこと、銀行や携帯電話、賃貸物件の解約や水光熱費の支払いなど民間企業相手の手続きも必要です。行政での手続きはある程度やることが決まっていますが、その他の日常の契約についての解除や変更は、人それぞ違うので、大変です。
本人でないと解約が大変
亡くなった後も契約解除をしておらず、「口座引き落としができない」と通知が来て初めて契約していたことを知るケースが増えています。
相続人が知らないうちに健康食品やサプリメント、日用品の定期購入契約をしていることがあります。一度申し込むと停止処理するまで自動で毎月届いてしまいます。ご本人の入院や老人ホームの入居などで家を空けるタイミングで続けるか確認しておいた方がいいかもしれません。ご本人以外だと契約解除に手間がかかり、その間にも品物が届いてしまい、代金を請求されるケースがあるようです。
パスワードがわからない
近年話題にのぼることが増えたのはデジタル機器関連です。いわゆるデジタル遺産といわれるものです。遺影に写真を使いたくてもパソコンやスマートフォンのパスワードが分からず、大切な家族写真のデータが取り出せないこともあります。携帯電話会社に問い合わせてもパスワードは教えてもらうことはできません。
このような民間会社との契約は、できることなら生前にご本人に確認し、必要のないものについては早めに解約しておきましょう。
解約しないにしても耳にしていれば、いざというときに慌てずに済みます。
<相続トラブル>申告期限までに遺産分割協議がまとまらない
ここで一つ事例をご紹介します。子どもがいない夫婦の例です。
事例 吉岡宗和さん 84歳男性
(※プライバシー保護のため一部変更しています)
吉岡さんは一人娘に先立たれ、夫婦二人で暮らしていました。夫婦仲はあまり良くなく、食卓を共にすることもありませんでした。それでも、それぞれが若い頃から仕事に打ち込み財産を蓄えていたため、不自由なく暮らしていました。
ところが吉岡さんは、階段で転倒したのをきっかけに車いすでの生活を余儀なくされました。78歳と高齢であったため退院後に自宅で生活するのは難しく、老人ホームへ入所することにしました。
しかし、妻は老人ホームの手続きや日常の世話をする気はありません。そこで、吉岡さんの妹の娘(姪)が一切の世話を引き受けてくれました。定期的な姪の訪問もあり、老人ホームでの生活を楽しんでいましたが、心筋梗塞により84歳で亡くなりました。
財産の全貌が見えない
家計はすべて別であったため、妻は吉岡さんがどのような財産をどれだけ持っているかは全く知りません。老人ホームの費用や日常にかかる生活費は、姪が現金の一部を預かり、吉岡さんに代わり支払っていました。
遺産分割協議に入ろうにも、なにがどこにあるかもわからず、資産状況を把握し、整理するだけでも思いのほか時間がかかってしまいました。
法定相続人は二人
吉岡さんの一人娘は大学生の頃に亡くなっています。両親もすでに他界しているため、相続人は妻と吉岡さんの妹の二人です。
法定相続分で分配すると妻が3/4、妹が1/4を相続します。しかし妹は、老後の世話を一切せずに自分の娘である姪に任せきりにしていた吉岡さんの妻をよく思っておらず、法定相続分では納得できません。
また吉岡さんは生前、「自分の財産はすべて姪に譲りたい。遺言も書くつもりだ。」と言っていましたが、遺言は見つかりませんでした。最後の数年、頭はハッキリしていたものの、寝たきり状態で遺言を遺すことができなかったようです。
その言葉もひっかかり、妻と仲が悪かった兄を想うと諦めきれません。
妻は吉岡さん名義の自宅に今も住んでおり、吉岡さんの妹に法定相続分以上を要求されると、多額の現金を渡すことになります。
嫌々ながらも夫婦をしてきたのだから、今後の蓄えに少しでも残しておきたいと思っています。
遺産分割協議がまとまらないと
配偶者には税額軽減や小規模宅地等の評価減などの特例があります。これらの適用は遺産分割協議が終わっていることが前提です。申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合、書面を作成することで3年以内なら適用されるようにすることもできます。しかし、処理が煩雑なので、よほどのことがなければ期限内に終わらせた方がよいでしょう。
相続税の支払いは何かトラブルが起こっても10ヵ月の期限が延長されることはありません。話がまとまらないときは一時的ではありますが、自分の持ち出しで支払わねばならないのでご注意ください。
希望があるなら家族に伝えておこう
いつかは遺言を遺そう、家族に希望を伝えよう、と思っていても、年齢を重ねるごとにますます重い腰があがらなくなってくるものです。
気力も体力もある70代前半までに財産の整理や面倒ごとの解決に乗り出しておくと安心です。相続は誰にでも起こります。「いつか」ではなく、「今」やり始めれば、きっと満足な老後が迎えられるはずです。
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