【弁護士監修】立退料はどのように決まるのか?9つの判例を分かりやすく解説

立ち退きの問題で、必ず出てくる「立退料」の問題。立退料に相場はあるのか?相場があるとしたら、どの程度か?

本記事では、できる限り多くの判例をご紹介し、立退料がどのように決まるのか解説していきます。

ぜひ最後までお読み下さい。

目次

立退料に相場はあるのか?

立退料に相場はあるのでしょうか。

結論から申し上げると、「立退料に相場はありません」。

というのも、立退料の有無、あるいは立退料の金額の多寡は、各個別の案件の事情による要素が大きいからです。ですので、一概に「立退料の相場は◯◯円程度」という言い方はできないのです。

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貸主が借り主に立ち退きを求める場合、貸主に「正当事由」が必要!

ここで言う「正当事由」とは、貸主が立ち退きを求める正当な理由のことです。立ち退きの交渉がまとまらず裁判となったとき、この正当事由の有無が争われることとなります。

たとえ、賃貸借契約の期間が満了しても「正当事由」がなければ契約の更新を拒絶できず、貸主は借主に退去してもらうことができません。

具体的には、どのような時に正当事由が認められるのでしょうか。

正当事由の有無の判断においては

・貸主及び借主が建物の使用する必要性
・建物の賃貸借に関する従前の経過
・建物の利用状況
・建物の現況
・財産上の給付(立退料の支払い)の申し出

などの要素から総合的に判断してなされます。

以上の前提をご理解いただいた上で、以下個別の判例について解説していきます。

9つの判例ケースで立退料を解説

さて、ここから9つの判例ケースを解説していきます。

判例の種別は
1)一軒家(一戸建て/住居)
2)事務所(オフィス)
3)店舗・テナント
以上3つの種別ごとに分類し、かつ正当事由の有無に分けて解説していきます。

一軒家(一戸建て/住居)の立ち退きに関する判例

まずは、一軒家(一戸建て/住居)の判例をケース1からケース3まで、3つの判例をご紹介します。

ケース1:一軒家(一戸建て/住居)の立退料の相場について(正当事由無し)

事案の概要

建物の賃貸人である原告が、賃借人である被告らに対し、賃貸借契約は、原告が解約により終了したと主張し、賃貸借契約終了に基づき、被告1については立退料300万円と引き換えに明渡しを求める事案。

原告

・被告1に対しては、300万円の立退料を支払う。
・築50年の建物。鉄筋コンクリート造り地上3階。主要用途は共同住宅(12戸)。

家賃

・賃料:4万円(1室)
・共益費:2000円(1室)

被告

・賃貸借契約は、元々親族間における相互扶助のために結ばれたものであり、低額な賃料で貸室を提供している。
・被告らは母子で協力して、賃料、共益費を何とか支払い、生活しているのが実情。

原告の主張

1)原告は、勤務先を定年退職し、現在も 同社で勤務を継続しているが収入は激減しており、いつまで雇用契約が継続されるかわからない不安定な状況である。原告が、今後確実に得られる収入は国民年金及び建物から得られる家賃である。建物の収入から、建物に係る維持費、固定資産税及び修繕費等を支払うことは事実上不可能。
2)建物周辺には、同程度の広さの賃貸物件が多数存在しており、被告らが貸室に居住し続ける必要性は乏しい。
3)建物は、耐震診断の実施が不可能であり、耐震性能が判然としない。
4)建物は現行の法令では認められていない構造になっている上、 改修工事により安全対策を講じることはできない。火災発生時に賃借人の安全を確保できない。
5)建物における被告ら以外の居住者は全員退去済み、 新築マンションに関する工事請負契約も締結済み、間取りもすでに図面化されているなど、建物の建替計画は具体的に進んでいる。
6)原告は 被告1に対し、300万円の立退料を支払う旨申し出をしている。

裁判前の直接の交渉経緯

・原告は、被告らを含む建物の賃借人に対し、賃貸借契約解約の意思表示を行った。
・被告らを除く賃借人との関係では立退きに関する合意がされ、被告ら以外の賃借人は全員退去済みである。
・原告は、被告1に対し、300万円の立退料を提供する旨申し出をしている。

裁判所の判断

・地震等により倒壊する危険があるとは認められない。
・修繕ではなく建替の方法しかない理由は認められない。
・建物の収益性が乏しいとまでは言えない。新築マンションに建て替える緊急性(必要性)が高いとは認めがたい。
・低額な賃料で賃貸したのが、実質的に親族関係にある者に対する扶助の性質を有していたと(原告側が)認めたので、そのような賃貸に至った経緯を踏まえると、建物使用継続に対する(被告側の)期待を保護すべき必要は高くなる。
・以上の点を総合的に考慮し、正当事由は認められない。

立退料

正当事由無し。立ち退き認められず。

弁護士のワンポイント解説

低額な賃料で賃貸したのが、実質的に親族関係にある者に対する扶助の性質を有していたと(原告側が)認めたので、そのような賃貸に至った経緯を踏まえると、建物使用継続に対する(被告側の)期待を保護すべき必要は高くなるという裁判所の判断は、建物の賃貸借に関する従前の経過を踏まえた判断であると考えます。

ケース2:一軒家(一戸建て/住居)の立退料の相場について(正当事由有り)

事案の概要

賃貸人である原告が、賃借人である被告に対し、正当事由による解約の申し入れにより賃貸借契約が終了したとし、賃貸借契約の終了に基づき、立退料200万円と引換えに貸室の明渡しを求める事案。

原告

・築36年、賃貸用のアパート。1階2室、2階2室の貸室からなる。
・建物の耐震強度が不足している。
・原告の自宅も建物より築年数が古く老朽化が進んだ状態。
・原告の年齢、病歴からすると、自宅及び建物を取り壊し、敷地の一部を売却して建築資金に充て、その残部及び自宅敷地に長男夫妻との二世帯住宅を建てようとしている。

家賃/坪数

・賃料:月7万5000円(共益費/消費税込み)
・床面積:8.6坪

被告

・被告は高齢で、無職、年金暮らし。他に入居できるような賃貸物件はない。
・病気がちで、近隣の病院に入通院を繰り返しており、要介護状態にあり、同居の長男が仕事を辞めて介護している。
・解約申入れ時点で賃貸期間36年が経過。
・被告の年齢、収入状況、病歴から、貸室を離れ、新たな環境に馴染むことは困難。
・住み慣れた住環境を維持継続したいと考え、貸室の賃借を強く希望している。

原告の主張

・建物は、建物の劣化、老朽化が進んでいる。
・被告以外の賃借人は、既に建物から退去しており、非効率的な利用状況となっている。
・建物は、建築基準法の耐震基準改正前に建築された建物であり、建築基準法上の耐震基準を満たしていない。
・建物に隣接する原告の自宅も、老朽化、白蟻被害による劣化により、喫緊に建替えを要する状態にある。
・原告は高齢で、精神的、肉体的に不安定な状態であり、敷地の一部を売却し建築資金に充て、その残部及び自宅敷地に二世帯住宅を建て、長男夫妻と同居したいと考えており、建物使用の必要性がある。
・被告は、貸室の利用の必要性を主張するが、近隣に代替物件があり、使用の必要性は低い。

裁判所の判断

・震補強工事を実施するためには、一定期間、被告が貸室から退去することを要することになることが想定され、 被告の貸室使用の必要性のうち貸室からの移転が困難であるという事情は、相当程度、相対化される。
・建物の近隣に同程度の条件の代替物件が複数存在する。
・被告の病状も、貸室から移転できない程、重いものであるとまでは窺われない
・原告、被告双方の使用の必要性に関する事情をふまえ、本件賃貸借に関する従前の経過、貸室及びこれを含む建物の利用状況及び現況等の諸事情を勘案すると、被告が貸室明渡しにより受ける不利益は相当額の立退料により補填することを要するものの、その立退料の提供による補完を前提として、解約申入れは正当事由があると認める。

立退料

400万円

立ち退き料の内訳

1)概ね4年分の賃料
2)移転費用
合計:4 0 0万円

弁護士のワンポイント解説

正当事由の有無、立退料の算出は、賃貸人及び、それぞれの諸般の事情を総合考慮して判断されます。

ケース3:一軒家(一戸建て/住居)の立退料の相場について(正当事由有り)

事案の概要

賃貸人である原告会社が、貸室の賃借人で、代表者が「居住用建物」として使用している被告会社に対し、貸室の賃貸借契約の更新拒絶には正当事由があると主張し、契約の終了に基づき、立退料2,000万円6,709円の支払いと引換に、貸室の明渡しを求めた事。

原告

・築30年。鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付4階建の建物。
・建物を解体し、分譲マンションを建築することを計画している。

家賃/坪数

・賃料:月65万円
・建物敷地面積:443.1坪

場所/立地

・建物の敷地(東京都品川区)及び建物が所在する地域は高級住宅街であり、近年、同地域における分譲マンションの需要が高まっている。
・建物は、JR地下鉄駅から徒歩約10分の場所に位置している。
・建物の所在する品川区付近は、豪華な邸宅や高級マンションが建ち並ぶ、緑豊かで閑静な高級住宅街である。
・建物の周辺に当たる港区と目黒区には大使館や外資系企業も多く、付近には外国人富裕層が多く居住している。

被告

・家族の居宅としてこの部屋を賃借し、20年以上居住している。
・付近に友人、知人が多数居住している。
・被告(代表者)と妻のいずれの職場からも(この貸室)が近い。
・外国人の生活様式に適した仕様(広さ)で設計され、ホームパーティーを開催するのに利便性がある。

原告の主張

1)建物の敷地の有効使用。
2)建物の老朽化。
3)建物の耐震性不足。
4)被告による貸室の使用の必要性。
・被告は、被告代表者及びその家族の居宅として貸室を利用していたにすぎず、貸室の周辺で代替物件を探すことは十分可能。
・周辺の代替物件へ移転しても、これまでの被告代表者らの生活環境に大きな影響はない。
・仮に周辺の代替物件への移転により、被告代表者の生活上不利益が生ずることがあったとしても、それは原告が提示する移転補償料によって填補し得る。
5)建物の利用状況及び賃貸借契約に関する従前の経過。
※詳細は次項「裁判前の直接の交渉経緯」>原告の主張参照。
6)立退料の提示
正当事由の補完として、相当額の立退料である2,000万66,709円を支払う意思がある。

裁判前の直接の交渉経緯

原告の主張
・原告が建物の所有権を取得した当時、建物には、実際に賃貸に供されていた9戸のうち6戸が賃借されていたが、交渉の結果、被告以外の賃借人は退去している。
・原告は被告に対し、本件物件が所在する周辺地域において被告代表者及びその家族が居住できる代替物件を複数提示し、相当な立退料を提示するなどして誠実に交渉していた。
・被告は、計画について原告と被告の共同によるビジネスとして協議すべきであるなどと述べ、それが受け入れられないなら最低4億5,000万円という法外な立退料の給付を明渡しの条件とすると述べるなどして退去に応じなかった。

被告の主張
・原告は、建物取得前に被告を含む賃借人らに対し明渡しの意向の有無を確認していない。
・また、他の賃借人らは建物から退去したものの、これらの賃借人らは外国人であり日本の借家制度に明るくなく、退去の合意を形成した過程には疑問がある。
・原告は、建物の所有権を取得すると、建物の建替えを前提に一方的に建物の明渡しを求め、 賃借人である被告の利益を不当に無視している。
・原告が提示した代替物件は、その多くが貸室付近に所在するものでなく、広さ、仕様、条件がいずれも貸室に劣り、又は賃料の負担が著しく大きいものであって、代替物件として評価することができない。

裁判所の判断

・原告の貸室を使用する必要性があるものと認められる。
・被告にも貸室を使用する必要性が認められる。
原告が被告に相当額の立退料を支払うことにより、被告の移転に伴う経済的負担がある程度補填されれば、(原告の)更新拒絶における正当事由が補完され、正当事由を有するに至るものと認める。

立退料

8,300万円

立ち退き料の内訳

・借家人の建物明渡しに伴い事実上喪失することとなる権利利益、並びに経済的利益の消失対価としての借家権価格を求める。
1)借家権割合法方式:4,790万円
2)移転補償額方式:8,300万円
内訳)
・新居宅との差額家賃等の補償額:6,700万円
・移転費用の補償額:100万円
・内装工事費等:1,500万円
3)貸家控除法方式:9,200万円

結論

・本件のように賃貸人から建物の明渡しを求められ、借家人が不随意の立退きを強いられる場合には、その補償額が総額において現実的な費用面から検証した移転補償額としての試算価格を下回るべきではない
・貸家控除法は飽くまで理論上の価格であり、控除差額の配分割合によって左右されがちなものであることなどが考慮する。
・本件における立退料としては、移転補償額としての試算価格である8,300万円を採用する。

弁護士のワンポイント解説

・賃料が高額であれば、移転補償額は高くなるということはいえますが、それをもって立退料が高額になるかどうかは、賃貸人の建物を必要とする事情等にもよると考えます。
・今回は原告が従前の交渉で1億円の立退料を提示していたこともポイントになると考えます。

事務所(オフィス)の立ち退きに関する判例

続いて、事務所(オフィス)の物件で、正当事由無しの判例から見てみましょう。

ケース4_事務所(オフィス)の立退料の相場(正当事由無し)

事案の概要

建物を所有する原告が、被告の賃借権は、原告による解約申入れ、あるいは更新拒絶により消滅したと主張し、建物の所有権に基づき、その明渡しを求めた事案。

原告

・築38年経過した建物。
・耐震基準に適合していない建物であるとして、これに起因する倒壊が考えられ、早急に建物を解体するべき(原告の主張)。

家賃

・賃料:月16万4850円(税込み)
・共益費:月1万0479円(税込み)

場所/立地

・建物の所在地の近隣に出版業者のメッカがある。
・多くの書店、出版社、出版間屋の取次店、出版関連業者が存在し、被告の取引先も多くがこの界隈に存在するため、場所の利を生かした営業を行うことができる。
・建物の向かいには教会が存在し、建物部分における著者との打ち合わせにおいて、教会の話題を通じて円滑にコミュニケーションを取ることができる。
・被告が建物における30年を超える営業活動において、取引先や著者との間で培ってきた信用は大きい。 被告にとって、建物において営業を継続する必要性が高い。

被告

・昭和47年設立。
・書籍等出版及び販売業務を営む。
・建物で営業活動を行っており、書籍等出版及び販売という業務において、立地が営業上の利点となっている。

原告の主張

1)建物は、建築後38年が経過しており、新耐震基準に基づく建築でない。
2)老朽化のためビル全体に亀裂が入り、雨漏りにより電気系統に異常があるが、修理は不可能である。
3)漏電が発生して火災の原因になることが予想されるため、早急に解体が必要であると指摘されている。

裁判所の判断

・原告の主張は、耐震診断審査が無く、根拠がない。
・原告は立退料を支払う意思がないと明言しており、正当事由を補完すべき事情もない。

立退料

正当事由無し。立ち退き認められず。

弁護士のワンポイント解説

原告が主張する建物の取り壊しの必要性について、客観的な証拠等に基づく十分な立証がされていないうえに、立退料の申出もないということが正当事由なしの判断につながったと考えられます。

ケース5_事務所(オフィス)の立退料の相場(正当事由有り)

事案の概要

・賃貸人である原告が、賃借人である被告に対して、貸室について賃貸借契約を解約して、建物の明渡しを求めた事案。

原告

・築44年。地上13F、地下2Fの、鉄骨鉄筋コンクリート造り。
・建具、設備に多少の老朽化があるものの、躯体、外壁、内装、その他の設備は、これまでも適宜更新されてきた。
・継続して使用することに特段の問題はない。

賃料

・貸室1(事務所):月60万7,250円(共益費別)
・貸室2(倉庫):月2万7,700円(共益費別)
 合計:月63万4,950円

敷金

1,295万4,000円

坪数

37.2坪(合計)

場所/立地

・建物の敷地は地下鉄都営三田線沿線の駅の北方約350m。
・JRの駅からも徒歩圏の場所に位置する。
・近隣に高層の事務所ビル、店舗兼事務所ビル等が建ち並ぶ商業地域である。

被告

・貸室1は事務所、貸室2は倉庫。
・40年以上、各貸室を唯一の事務所として使用。継続して安定した収益を上げている。
・転居した場合には、様々な不利益を被る可能性を否定できない。

原告の主張

1)建物の老朽化。
2)建物敷地の高度利用 ・有効活用したい。
3)立退料の支払い(506万1,720円)を提示している。
4)代替物件を紹介している。
5)被告以外のテナントとの交渉は順調に推移しており、退去をかたくなに拒絶しているテナントは被告のみ。
6)被告は各貸室を事務所及び倉庫として使用しており、その業務は各貸室においてのみ可能という性質のものではない。

裁判所の判断

・建物を継続して使用することに特段の問題は見られない。
・建物の現状が、その外観、規模からみて、その周辺との関係で不相応になっているとも認められない、
・建物の構造から見て、緊急に建て替える必要性も認められない。
・建物の敷地と隣地の上に高層ビルを建築してこれを高度利用することにより、より大きい利益を得ようとする原告の私的な必要に基づく。
立退料が提供された場合、かつ、その場合に「のみ」、正当事由を認める

立退料

1,300万円

立退料の内訳

・基本的には鑑定人が採用している賃料差額方式に所用の修正を加えて立退料を算定し、その結果算定された立退料資産額の妥当性を借家権割合方式により算出された価格により検証することとするのが比較的妥当なものである。

1)借家権割合方式:1,920万円

2)賃料差額方式:1,018万3068万円

被告が退去を強いられることによる
・転居費用
・一時金差額
・仲介手数料
・人件費や通信費等を含む)移転雑費
・その他の費用
合計:253万9,800円(月額賃料の4ヶ月分)

3)賃料差額方式に修正を加えた金額:
1,018万3068万円+253万9,800円=1,272万2,868円

4)賃料差額方式:
1018万3,068円、借家権割合方式:1,920万円の立退料を算定し
その現実的妥当性に鑑みてそれぞれ1対2の割合で勘酌した金額は1,318万8,712円

結論

以上の事情を総合的に考慮し、1,300万円の立退料が提供された場合に正当事由が補完される

弁護士のワンポイント解説

立退料はあくまで正当事由の補完事由とされており、建物の使用を必要とする事情は必要です。したがって、立退料の支払いのみでは正当事由は認められない点に注意が必要です。

ケース6_事務所(オフィス)の立退料の判例(正当事由有り)

事案の概要

建物賃貸人である原告が、業を営む被告に対し、建物の明け渡しを請求した事案。

原告

・建物本館:鉄筋コンクリート造陸屋根5階建の店舗兼事務所(築45年)。
・建物別館:軽量鉄骨造2階建の店舗兼事務所(築35年)。

家賃/坪数など

・本館
家賃:199,500円(税込み)/敷金:250,000円

・別館
家賃:135,027円(税込み)/敷金:650,000円

場所/立地

・東京メトロ銀座線沿線の駅北東方約80M。幅員40Mの国道に面する。
・都心の一等地。
・駅至近で交通が便利。
・優れた中高層の店舗兼事務所ビルが集中する高度商業地域に位置する。

被告

・不動産仲介業を営み、近隣における知名度は高い。
・被告の従業員は10名。
・顧客の9割はフリーの客。

原告の主張

1)建築基準法上の耐震基準を満たしていない(本館、別館)。
2)防火対象物として遵守すべき消防法上の規制に反した違法建築物(本館)。
3)容積率/近隣の他のビルと比較して大幅に下回る。敷地の最有効使用には程遠い(本館、別館)。
4)建物の物理的な老朽化(本館、別館)。
5)新たな賃貸用兼居住用ビルの建築を計画(被告以外はすべて明渡し完了)。
6)公租公課、管理費用等の支出(800万円)、賃貸収入(600万円)で赤字。このまま続くと著しい損失。
7)上記状況下で事故が発生した場合、多額の損害賠償責任を負うリスクがある。
8)被告の用法遵守義務違反がある。
9)正当事由を補完するものとして立退料を支払う用意がある。

裁判前の直接の交渉経緯

・原告は内容証明郵便をもって、賃貸借契約の解約及び契約終了後の明渡しを申し入れ。
・被告(の言い分)は再入居を前提として交渉を継続していたものの、再入居を拒否して明渡しを求めるのは信義則に反すると主張。

裁判所の判断

・建物の物理的状況的に大修繕・建替が早晩避けられない。
・建物の容積率(敷地面積に対する「延べ床面積」の割合)が低く、敷地の有効利用は図られていない。
・現在の賃料収入に比して、固定資産税等による支出が年間200万円程度過大であり、原告の負担が大きい。
・上記諸事情を考慮すると、建物本館と隣接する建物別館を取り壊し、原告の建替え計画には合理性がある。
・(被告は)店舗を移転したとしても、今まで築いた信頼や実績は失われないはずであり、被告の長年の経験と実績に基づく営業努力により十分対応可能であると考えられる。
・立退料が支払われれば(補完されれば)、解約申入れの正当事由を認める。

立退料

3,000万円
立退料の内訳
1)借家権価格
・本館:4,621,000円
・別館:5,063,000円
2)営業補償
・13,757,623円(過去010年間の平均年間営業利益)
3)移転に伴う諸費用
・同等の建物に入居する際の保証金等:3,898,704円(本館+別館の月額賃料の12ヶ月分)
・引越その他費用:3,000,000円

弁護士のワンポイント解説

今回の判決では、被告が43年間にわたり営業しており、事務所の立地条件からして、建物利用を継続する必要性は高いと認められるものの、明渡しに伴って事務所が移転したとしても、営業の継続は不可能ではなく、原告が適正な立退料を支払えば、解約申入れの正当事由は補完できるものとされたのではないかと考えます。

店舗・テナントの立ち退きに関する判例

最後に、店舗・テナントの判例を見ていきましょう。

ケース7:店舗、テナントの立退料の相場(正当事由無し)

事案の概要

賃貸人である原告が、 賃借人である被告に対し、更新拒絶をする正当の事由がある(建物が耐震性能に欠けるため、 取壊しの必要がある)と主張して、 賃貸借契約の終了に基づき、 建物の明渡しを求めた事案。

原告

・鉄筋コンクリート造の建物(築44年)。
・建物につき、 自己使用の必要性はないが、 耐震性能の点で問題があることから、 直ちに取り壊す必要がある。
・取壊し後の敷地については、建物を再築することは考えておらず、収入が少なくとも構わないので、 費用の支出やその他の管理面で負担の少ない駐車場として利用していくことを想定している。

家賃/用途

・賃料:月額50万円(+消費税)
・用途:レストランの営業

場所/立地

最寄駅の東京地下鉄の駅までは徒歩5分程度の距離に位置する。

被告

・建物の新築当初から、店舗を賃借してそこで飲食店を営業している。
・被告は店舗での営業が継続できなくなった場合、他の場所において現在の料理店と同等の集客能力を備えた料理店を開設することが困難。
・これにより相当の損失を被ることが見込まれ、また、それに伴い、高齢の代表者や従業員の一部の生活にも影響を与えるおそれがある。
・被告には、店舗の使用を必要とする相当に切実な事情がある。

原告の主張

・既に老朽化し、耐震性能に欠けている。 大地震の際に倒壊等の危険があり、直ちに取り壊す必要がある
・経済的効用を既に失っており、その維持を原告に強いることは極めて不合理。
・一方、被告は、長期間にわたって低廉な賃料で本件店舗の利用を継続することで、賃借に伴う投下資本を回収するに十分な多額の収益をあげている。
・従前の経過に照らせば、建物を取り壊す必要から、 近い将来、建物を退去しなければならないことを被告は承知していたというべき。

裁判所の判断

・原告からは上記の駐車場について具体的に計画を立てていることを裏付けるような証拠の提出がない。原告には、建物を取り壊したとして、差し迫った自己使用の必要性があるとは認められない。
・耐震性能を理由に、その取壊しが不可避と認めることは困難。
・建物を使用する積極的な事情の認められない原告が、 店舗の使用を必要とする相当に切実な事情があるというべき被告に対して、不随意での立退きを求めるものである。
・建物の明渡と引換えに、2,895万円の給付をする旨を申し出ているが、この申し出については、それ自体が正当事由を基礎付ける事実となるものではなく、正当事由を補完するにすぎない。
・原告の立退料の申し出によってもなお正当事由を認めることはできない。

立退料

正当事由無し。立ち退き認められず。

弁護士のワンポイント解説

この裁判では、原告側に具体的な建物使用の必要性が認められませんでした。立退料は、あくまで正当事由を補完するものである点に注意が必要です。

ケース8:店舗・テナントの立退料の相場(正当事由有り)

事案の概要

・原告所有の建物を賃借していた被告に対し、被告との賃貸借契約の解約申入れには正当事由があるとして、賃貸借契約終了に基づき、建物の明渡しを求める事案。
・原告は無条件での明渡しを求める一方、立退料の支払の申出も行っている。

原告

・鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付10階建。
・耐震性の問題。
・本件ビルにおいては、現状修繕不能な配管の淵水部分があるなど他にも老朽化や不具合が認められる。
・現状の建物利用としての競争力は相当に劣るものとなっている。
・実際、10階建てのビルでありながら、1階部分以外には営業しているテナントはない。

家賃

・賃料:月48万6,460円(税別)
・管理費:月3万7,420円(税別)

被告

・同じ屋号で同じ場所で20年にわたり飲食店を営んでいる。
・別の場所で同じ屋号で営業を再開したとしても、立地、席数が変われば売上が変わり、またリピーター(常連客)が離れることから客数も減る。

原告の主張

1)ビルは、昭和47年新築であり、建築後47年が経過した旧耐震基準による設計である。
2)各所に老朽化とともに不具合が認められ、耐震性に「疑間あり」と診断されている。
配管に漏水が生じているが、他の配管へ影響が出る可能性があるため修繕ができない状況。
3)10階建ての建物であるにもかかわらずエレベー タ ーの補修工事も不可能で、高層階の使用もできない。
4)立退料(2330万円/差額賃料4年分相当)の提示に加え、被告に対し、建物から徒歩数分程度の距離に位置する代替物件を提示している。

裁判所の判断

・原告側としては、 建替のために建物を含むビルを使用する必要性が高いということができる。
・被告側としても、 同じ屋号で同じ場所で20年にわたり飲食店を営んできており、 建物で営業を続けるために建物を使用する必要性があることは認められるものの、当該使用状況からすれば、 適正な立退料の支払があれば正当事由が認められる。

立退料

2,300万円

立退料の内訳

・借家人の建物明渡しに伴い事実上喪失することとなる権利利益、並びに経済的利益の消失対価としての借家権価格を求める。

1)控除方式による価格:2,260万円
2)賃料差額等に基づく価格:2,360万円
3)借家権割合法による価格:1,880万円

・本件のようなケースでは2)賃料差額等による価格は、1)控除法による価格に比べ、より具体的に借家権喪失に伴う経済的利益の消失に対する権利利益としての対価が試算されている。
・したがって、本件においては相対的に説得力の高い賃料差額による価格を重視する。
・控除法による価格を関連付け、借家権割合法による価格で借家権価格水準の検証を行う。

結論

2,300万円の立退料の支払を含めることで、解約申入れに正当事由を認める。

弁護士のワンポイント解説

築47年経過していること、10階建てで1階以外にテナントがなく収益性がないことがポイントの一つと考えられます。

ケース9:店舗、テナントの立退料の相場(正当事由有り)

事案の概要

ビルを転貸する原告が、転借人である被告に対し、貸借契約の終了及び正当事由の存在を理由として、立退料の支払と引き換えに各建物の明渡しを求める事案。

原告

ビルは、築50年以上。

家賃

家賃:124万4,000円(税抜)

場所/立地

ビルは渋谷駅から東急東横線で1 0分ほど。駅のほぼ駅前にある。

被告

・被告は漫画喫茶を経営。
・建物で運営する漫画喫茶は、被告の漫画喫茶事業において最大の店舗。

原告の主張

1)建築後5 0年以上経過し、老朽化している。
2)ビルの立地条件が良く、3階建てで老朽化した従来型の小規模店舗が集合した商業施設が建っているという状況にある。原告は、ビルを取り壊し、 新たな建物を建築する具体的な計画を有している。
3)被告は、 建物の使用(営業継続性)の必要性が低い。
4)ビルの賃貸借契約に関する従前の経過
※詳細は次項「裁判前の直接の交渉経緯」参照

裁判前の直接の交渉経緯

・原告は被告に対し、解約申入れを行った後に、ビルの立退きについての文書を交付し、立退料も示したが、被告からは一切連絡がなかった。
・その後、協議の機会を設けたいとの書面を郵送するも、被告からは回答は無し。
・さらに、原告代理人からの内容証明郵便で被告との面談の申入れをした結果、原告代理人と被告代理人との面談の機会が設けられたが、被告からは立ち退く意思がないとの回答あり。
・再検討を依頼したが、2か月以上回答はなく、その後の面談でも原告が提示した立退料を提示するが、被告が真摯に検討したとは見受けられなかった。

裁判所の判断

・被告は 多角的に営業を行っており、被告においては相当な売上高がある中で、被告にとっても、この建物での営業が、被告の中心的活動であって、 営業拠点として必要不可欠な場所であると認めるに足りる証拠はない。
・原告の建物利用の必要性が一定程度あると認められるものの、 正当事由を具備するには、金銭的対価で補完する必要がある。

立退料

1億3,300万円

立退料の内訳

1)設備工事関係費用(内装費):2,010万1,000円
2)借家人保証(家賃増額分の補填:基準家賃との差額):4,276万8,000円
3)営業補償:1,557万2,496円
4)狭義の借家権価格(移転実費を含まない借家権):5,290万円
5)移転雑費:486万4,000円

結論

・合計額は1億3,620万5,496円となるが、本件で現れた諸事情を考慮すると、正当事由の補完として上記額の約9割が相当であるから、立退料としては1億2,259万円が相当である。
・原告が、保証金1,054万円の返還も約していることからすると、これを加算調整した1億3,300万円を立退料とする。

弁護士のワンポイント解説

鑑定による内装費、家賃増額分、営業補償などがそれぞれ高額であったことが理由と考えます。また、立退料が高額なのは賃貸面積が広かったという点もあると考えられます。

まとめ

以上、9つの判例をご紹介しました。各判例に共通することは、正当事由の有無については、裁判所の判断がとても重要で、事案によりその判断は様々であるという点です。その点から、立退料には相場というものはなく、立退料が発生するもの、しないもの、立退料が高いもの、低いもの、様々であることがお分かりいただけたかと思います。

立ち退きの問題は、このように裁判にもつれてしまうことも少なくありません。立ち退き交渉がこじれる前に、専門家への相談を検討しましょう。当事者間で交渉するより、スムーズに決着することが期待できます。

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